備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

書籍(感想)

関口正司『J・S・ミル 自由を探求した思想家』

J・S・ミル 自由を探究した思想家 (中公新書)作者:関口正司中央公論新社Amazon 2023年6月刊。J・S・ミルといえば、父ジェームズやジェレミー・ベンサムの薫陶を受けた早熟の天才との印象を持つ。本書では、評伝という形式で、ミルの思想の全体像をみる。…

橘木俊詔、森剛志『新・日本のお金持ち研究』

新・日本のお金持ち研究作者:橘木 俊詔,森 剛志日経BPマーケティング(日本経済新聞出版Amazon 2009年10月刊。2005年に出版された『日本のお金持ち研究』の続編で、内容は異なる。本稿の著者は、前著『日本のお金持ち研究』を未読であるが、関係箇所は概ね引…

玄田有史、連合総研編『セーフティネットと集団 新たなつながりを求めて』

セーフティネットと集団 新たなつながりを求めて日経BP 日本経済新聞出版Amazon 2023年5月刊。日本のセーフティネットは、2008年の世界金融危機、また同年末の「年越し派遣村」を契機に非正規雇用者の労働条件が社会問題化したこと等を受け、無料の職業訓練…

コルナイ・ヤーノシュ(溝端佐登史、堀林巧、林裕明、里上三保子訳)『資本主義の本質について イノベーションと余剰経済』

資本主義の本質について イノベーションと余剰経済 (講談社学術文庫)作者:コルナイ ヤーノシュ講談社Amazon 訳書の初出は2016年で、原著は2014年刊。原題は”Dynamism Rivalry, and Surplus Economy: Two Essays on the Nature of Capitalism”。社会主義シス…

オリヴィエ・ブランシャール(田代毅訳)『21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略』

21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略 (日本経済新聞出版)作者:オリヴィエ・ブランシャール日経BPAmazon 原著は2022年刊で、原題は”Fiscal Policy under Low Interest Rates”。自分の世代的には、著者は、マクロ経済学の教科書としてある種「…

渡辺努『世界インフレの謎』

世界インフレの謎 (講談社現代新書)作者:渡辺努講談社Amazon 2022年10月刊。パンデミックとウクライナ戦争のさなか、欧米諸国で生じた世界インフレの原因を探る。2022年2月に始まるウクライナ戦争を契機として、原油、穀物等の供給制約が生じ、コスト・プッ…

ジェイク・ローゼンフェルド(川添節子訳)『給料はあなたの価値なのか 賃金と経済にまつわる神話を解く』

給料はあなたの価値なのか――賃金と経済にまつわる神話を解く作者:ジェイク・ローゼンフェルドみすず書房Amazon 原題は”You’re Paid What You’re Worth: And Other Myths of the Modern Economy”で、2021年に出版(邦訳は2022年2月刊)。 著者は、大学学部で…

重田園江『ホモ・エコノミクス-「利己的人間」の思想史』

ホモ・エコノミクス ――「利己的人間」の思想史 (ちくま新書)作者:重田 園江筑摩書房Amazon 2022年3月刊。ホモ・エコノミクスとは「合理的経済人」、すなわち自らの経済的・金銭的利得を第一に考えて行動し、あらゆる情報を考慮し、計算を間違えず、自らの選…

マイケル・サンデル(鬼澤忍訳)『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

実力も運のうち 能力主義は正義か?作者:マイケル サンデル早川書房Amazon 2021年刊。原題は”The Tyranny of Merit What’s Become of the Common Good?”。本書に語られるのは、米国のメリトクラシー、学歴偏重主義の問題である。これは日本にもある程度当て…

渡辺澄夫『ベイズ統計の理論と方法』

ベイズ統計の理論と方法作者:渡辺 澄夫コロナ社Amazon 2012年初版刊行。読んだのは第3章の途中までだが、この先、特に第4章は自分に理解できる内容ではない。ただし、2018年に六本木ニコファーレにて開催されたMATH POWERでの著者の講演(ニコニコ動画にて…

末石直也『計量経済学 ミクロデータ分析へのいざない』

計量経済学---ミクロデータ分析へのいざない作者:末石 直也日本評論社Amazon 2015年の刊行。取り上げるテーマは線型回帰に始まり、操作変数法、プログラム評価、GMM*1、制限従属変数、分位点回帰、ブートストラップ、ノンパラメトリック法と、わずか200頁…

清水昌平『統計的因果探索』など

統計的因果探索 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)作者:清水 昌平講談社サイエンティフィクAmazon 実証分析における因果推論の「興隆」に関しては、これまでも様々な書籍を取り上げてきたが、その重要性は、もはや論を待たないものとなっている。また、2…

小野善康『資本主義の方程式 経済停滞と格差拡大の謎を解く』

資本主義の方程式-経済停滞と格差拡大の謎を解く (中公新書, 2679)作者:小野 善康中央公論新社Amazon 日本経済は成長経済から成熟経済へと移行し、これまで、成長経済を基礎として作り上げられたマクロ経済学上の数々の処方箋は、大きな見直しを迫られている…

渡辺努『物価とは何か』

物価とは何か (講談社選書メチエ)作者:渡辺努講談社Amazon 物価は、直感的には「モノの値段」という風に捉えられがちだが、その本質は貨幣と商品(財・サービス)全般との交換比率、すなわち貨幣の価値を示すマクロ経済的な概念である(経済主体それぞれの購…

経済セミナー編集部編『新版 進化する経済学の実証分析』

進化する経済学の実証分析 経済セミナー増刊日本評論社Amazon その名称が示す通り、本書では、経済学の様々な分野における実証分析について、その最前線を、その分野の第一人者が渉猟。2016年に『経済セミナー』の増刊号として出版され、2020年に増補版とし…

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機』

ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)作者:濱口 桂一郎岩波書店Amazon 2009年に刊行した『新しい労働社会』において、著者は日本とは異なる欧米諸国の雇用システムを「ジョブ型」と名付け、それとの対比から、日本の雇…

大沢真理『企業中心社会を超えて 現代日本を「ジェンダー」で読む』

企業中心社会を超えて――現代日本を〈ジェンダー〉で読む (岩波現代文庫)作者:大沢 真理岩波書店Amazon初版は1993年で2020年に改めて文庫化されたもの。タイトルに明示されるとおり、本書では、日本経済がオイルショックを効果的に乗り越えることができた理由…

兵藤釗『戦後史を生きる 労働問題研究私史』

戦後史を生きる 労働問題研究私史作者:兵藤 釗同時代社Amazon兵藤釗という「労働問題」研究者の人生史。主著は『日本における労資関係の展開』と『労働の戦後史』。かつて、「社会政策から労働問題へ」との提言に始まった日本の労働問題研究であるが、日本経…

牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』

経済学者たちの日米開戦―秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く―(新潮選書)作者:牧野邦昭新潮社Amazon 2018年刊。秋丸機関とは、陸軍省に設置された戦争経済を研究する機関であり、経済学者の有沢広巳らが参加した。ケインズが『一般理論』を刊行した1936年以…

西野智彦『ドキュメント日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀』

ドキュメント 日銀漂流――試練と苦悩の四半世紀作者:西野 智彦岩波書店Amazon 1996年に始まる日銀法改正の議論からアベノミクスのもとでの異次元緩和まで、四半世紀にわたり、ジャーナリスト的な(極力私見を交えず丹念な取材に基づく)視点から日銀の動向を…

ティディエ・エリボン(塚原史訳)『ランスへの帰郷』

ランスへの帰郷作者:ディディエ・エリボンみすず書房Amazon フランスの労働者階級に出自を持ち同性愛者である著者が、父の死を機に十数年ぶりに帰郷したことを起点として、自伝の形式をとりつつ、フランスにおける(所得面のみならず文化資本を含めた)格差…

濱口桂一郎、海老原嗣生『働き方改革の世界史』

働き方改革の世界史 (ちくま新書)作者:濱口桂一郎,海老原嗣生筑摩書房Amazon 英米独仏日の労使関係論に関する古典的名著を紹介。一見、適当に選択したようにみえるそれぞれの主張が、「労働法政策を基本的なディシプリン」とする著者の一貫したパースペクテ…

安井翔太『効果検証入門 正しい比較のための因果推論/計量経済学の基礎』

効果検証入門〜正しい比較のための因果推論/計量経済学の基礎作者:安井 翔太技術評論社Amazon 観測データから因果関係を特定することが困難であることは、よく知られた事実である。与えられたデータを用いて因果推論を行う場合、必ずしもオーソドックスな分…

酒井正『日本のセーフティネット格差 労働市場の変容と社会保険』

日本のセーフティーネット格差:労働市場の変容と社会保険作者:酒井 正発売日: 2020/02/06メディア: 単行本 主として「就業」及び「格差」の観点から、日本の(広義の)セーフティネットについて、筆者自身の研究も交えつつ、近年の政策研究をサーベイする。…

浜田宏、石田淳、清水裕士『社会科学のためのベイズ統計モデリング』

社会科学のための ベイズ統計モデリング (統計ライブラリー )作者:浜田 宏,石田 淳,清水 裕士発売日: 2019/12/01メディア: 単行本(ソフトカバー) 「社会科学のための」と謳われているように具体的な政策分析事例を取り上げ、加えて「文系人間」でも数式展…

柄谷行人、浅田彰『全対話』

柄谷行人浅田彰全対話 (講談社文芸文庫)作者:柄谷行人,浅田彰発売日: 2019/10/11メディア: Kindle版 1980年代から90年代にかけての対話を集約しており、以前、何処かで読んだことのある文章がほとんど*1。バブル崩壊・金融危機以前の時代性が色濃く感じられ…

デイヴィッド・ハンド(松井信彦訳)『「偶然」の統計学』

「偶然」の統計学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫〈数理を愉しむ〉シリーズ)作者:デイヴィッド・J・ハンド発売日: 2017/10/05メディア: 文庫 人は「偶然」を恰も「必然」であるかのように感じ、物語を紡ぎ出すことがある。またその「偶然」は、さほど珍し…

東浩紀『ゲンロン戦記 「知の観客」を作る』

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)作者:東浩紀発売日: 2020/12/11メディア: Kindle版 2010年に創業された株式会社ゲンロンのこの10年間の歴史を、創業者で2018年末まで代表を務めた哲学者、批評家、東浩紀の視点でから振り返るもの。筆者…

シン=トゥン・ヤウ、スティーブ・ネイディス(久村典子訳)『宇宙の隠れた形を解き明かした数学者 カラビ予想からポワンカレ予想まで』

宇宙の隠れた形を解き明かした数学者 カラビ予想からポアンカレ予想まで作者:シン=トゥン・ヤウ,スティーブ・ネイディス発売日: 2020/10/07メディア: 単行本 微分幾何学者で数理物理の世界に大きな名を残す数学者シン=トゥン・ヤウの自伝。原題は”The Shape…

トーマス・カリアー(小坂恵理訳)『ノーベル賞で読む現代経済学』

ノーベル賞で読む現代経済学 (ちくま学芸文庫)作者:トーマス・カリアー発売日: 2020/07/10メディア: 文庫 1969年に最初のノーベル経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)を受賞したフリッシュ、ティンバーゲンから、2009年に受…