ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

超金融緩和政策のメリットとデメリット(JMM 02/14/05発行)

概要

中島精也:伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト 金利は、期待インフレ率、実質金利期待潜在成長率、リスクプレミアムからなる。物価上昇率、経済成長率と異なり金利は非負制約があるため、前者がマイナスの場合、実質金利が上昇し流動性選好が高まることによる総需要の減少により〉経済を痛めつける。量的緩和は、株価・国債価格の上昇による資産効果等の副次効果を期待したもの。確かに国債価格上昇の効果はあったが、銀行の信用創造が働かず、マネーサプライは増えない。一方、量的緩和のデメリットとして、金融機関は国際価格の下落リスクを負う。金利も量も経済状態に応じて変化させていくのが自然であり、物価上昇率がゼロでも実質成長率がプラスなら、金利はプラスでもおかしくはない。
真壁昭夫:エコノミスト 現在の金融政策の目的は、金利の低下による景気の刺激と金融システム不安の発生を防ぐこと。後者についてはかなり解消された。その他、国債価格の上昇、株価の上昇により、国や金融機関を中心にメリットを享受。反面、ゼロ金利が解除された場合の潜在的なリスクが増大。一方、預金者は不利益を受けている。債務者にはモラルハザードが生じており、資金の制約がなくなるため資源の最適配分が妨げられる。
山崎元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ゼロ金利のメリットは、①金融システム不安の防止、②調達金利低下による投資の促進と、貯蓄と投資の関係での消費の下支え(実質金利が上昇しているため効果は十分でなく、インフレ期待を喚起すべきというのは、マネーサプライの増加に繋がらず短絡的思考)、③資産効果、④過剰負債企業の延命による需要の下支え。ただし、④は非効率の温存というデメリットを合わせ持つ。一方、デメリットは、①生保等長期負債を負う主体の財務悪化、②貨幣流通速度の低下。デフレ脱却のため、資金供給と伴に資金需要を作り出すには、いわゆるヘリコプターマネーや通貨発行益を原資とする政府需要の創出があるが、フェアではなく、後者は非効率な支出を増やす。もともと、アナウンスメント効果しかなかったもの。
菊池正俊:メリルリンチ日本証券ストラテジスト 超金融緩和政策の解除は、債券や株式市場がどう反応するか、その時期を見極めることが重要。団塊リタイアは、景気刺激的な効果を持つ。一方、今年末以降には消費税論議。消費税引き上げがあれば景気に打撃を与えるので、超金融緩和政策を解除するには、その合間をうまく捉える必要がある。
津田栄:経済評論家 今般の景気回復は、ごく一部の企業・地域がリードし、主に海外需要によるものであり、デフレ解消はできておらず、ミクロ的には超金融緩和政策の効果を論ずることはできない。総体的にメリットが勝っているとしても、日本企業の9割、雇用労働者の7割が中小企業労働者であることを考えると、国民の感覚はデメリットか。短期金融市場が機能不全に陥ると、市中に十分な資金が回らなくなる。
岡本慎一:生命保険会社勤務 量的緩和のメリットは大きく、円安効果を通じて企業収益を押し上げる。流動性預金の増加から消費への資産効果は大きく、実際、雇用者所得が低下する中でも名目消費はプラスとなっている。また、日銀当座預金に資金が余っていることと資金需要がないことは同義ではない。金融機関が国債残高を増やしたことによる潜在的なリスクも、金利の上昇が徐々に生じていく中で資金がシフトするので、それほど問題にはならない。預金者にとって不平等との指摘についても、失業者と職業が安定している者との間の不平等に比べれば小さなもの。また、財政政策に比べれば金融緩和の方がよほど平等と言える。*1

コメント 量的緩和政策に否定的な意見が多い中で、何故か生命保険会社に勤務する岡本慎一氏がそれを肯定しているというところがおもしろいところ。突っ込みどころはありそう。特に、真壁昭夫氏の最後の件や津田栄氏については、総需要の不足、波及効果等のマクロ経済的な文脈が感じられない。モラルハザードという用語の使い方についても違和感。また、山崎元氏は「調達金利の低下による投資の促進と、貯蓄と投資の関係での消費の下支え」と言っているが、ISバランスの中では、貯蓄と投資の差額の減少は貿易黒字の減少を招く。
 ただし、貨幣流通速度の低下という面については一概に否定できず*2、今般の景気回復過程に於いても、金融機関を中心とした信用リスクの改善が貨幣流通速度を高めたことの影響は少なからずあるか。関連するが、榊原英資氏は、クレジットパラダイムに関する話に絡めて、マクロをミクロの積み上げとしてみる発想が重要とまで言っている。*3
 また、企業の収益改善が賃金や資産効果のチャネルを通じて、リストラによる失業と総需要の低下を上回る効果をもたらす場合は、中島精也氏の言うとおり「金利も量も経済状態に応じて変化させていくのが自然」か。

*1:それにしても、文章を作る中で、最初に読んでいたときには意識していなかった意図が読みとれてくる。これを一読のうちに理解できるのが理想である。そのような「頭のいい人」が持っている力をコミュニケーションスキルと呼ぶのだろう。

*2:量的緩和によって、貨幣流通速度が低下する面もあるが、総じて、信用リスクの高まりがあって貨幣流通速度が低下していることの要因の方が大か。

*3:上野孝司他「ブルームバーグ東京発 信用リスクを読む」P.325

ブルームバーグ東京発 信用リスクを読む

ブルームバーグ東京発 信用リスクを読む