ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

加藤涼、川本卓司「ニューケインジアン・フィリップス曲線:粘着価格モデルにおけるインフレ率の決定メカニズム」(日銀レビュー)

伝統的フィリップス曲線

  • インフレ率とGDPギャップの間に観測されるフィリップス曲線は経験則に過ぎず、関係式の背後に存在している企業行動が明らかでないという意味で「ミクロ的基礎付けがない」とされている。
  • 金融政策において統計的因果性を利用しようとしても、金融政策の変更を認識した民間主体はインフレ期待を変化させる(ルーカス批判)。このため、ミクロ的基礎付けを持ちルーカス批判に耐えうる総供給モデルが必要となる。

粘着価格モデルとニューケインジアンフィリップス曲線

  • NKPCでは、財の価格が粘着的であることと、財市場が「独占的競争」状態にあることを仮定。後者は、相互にある程度代替的な財について、それぞれの財市場では1企業だけが供給している状態を指す。
  • 粘着価格モデルで代表的なカルボ型では、価格改定のチャンスが一定の確率でランダムに訪れる。この場合、企業は「瞬時的に望ましい価格」(=限界費用×一定のマークアップ*1ではなく、次の価格改定のチャンスまで同一価格とすることを織り込んだ「最適リセット価格」(将来時点で望ましい価格の現在価値を反映)で価格水準を決定。
  • P(t)=p・最適リセット価格(t)+(1-p)・P(t-1) p:価格改定確率 P:物価水準 となるが、これを整理すると*2NKPC1: dP(t)=E(t+1)dP(t)+a・実質限界費用(t) (a=c・p) となる。
  • 金融緩和策により名目総需要が増加する場合、粘着物価であるから実質総需要が増加し、同時に各企業の供給する財に対する需要も増加。マークアップが1を超えるため、各企業は需要の増加に対応して生産を増加させるのが最適な反応であり、GDP完全雇用水準を超えて上昇(正のGDPギャップ)。労働市場が完全であれば実質賃金が上昇するので、GDPギャップの上昇と実質限界費用の上昇は表裏*3。(逐次代入すると、)インフレ率は期待GDPギャップの現在価値を反映するため、GDPギャップに先行。

ニューケインジアンフィリップス曲線の実証分析と粘着価格モデルの問題点

  • NKPCの実証パフォーマンスは優れず、パラメータとしてNKPC式に過去のインフレ率を加えるとパフォーマンスが良くなる。ラグ項を加えたハイブリッド型NKPCが多くの分析で使われるようになったが、ミクロ的基礎付けを欠く。
  • 粘着価格モデルが実際のインフレをうまく説明できないのは、モデルが説明するのはあくまで価格の粘着であり、インフレ率の粘着的な反応*4を反映していないため。カルボ型粘着価格モデルでは、インフレ率はショックに対し瞬時に反応。

粘着インフレをめぐる最近の研究動向

  • 粘着インフレに関する理論的研究は緒に就いたばかりであるが、①カルボ型粘着価格モデルの基本的枠組みを維持し粘着賃金を導入、②不完全情報を理論モデルに取り入れる、といったアプローチがある。

*1:完全競争市場では、価格=限界費用。

*2:計算過程の理解はpending。

*3:NKPC2: dP(t)=E(t)dP(t+1)+b・GDPGAP(t)

*4:VARモデルを使って検証可能