ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

岩崎日出俊「サバイバルとしての金融−株価とは何か・企業買収は悪いことか」

サバイバルとしての金融―株価とは何か・企業買収は悪いことか (祥伝社新書)

サバイバルとしての金融―株価とは何か・企業買収は悪いことか (祥伝社新書)

第1章 「金融」はあなたを金持ちにするか
第2章 お金にコントロールされずに、お金をコントロールする生き方
第3章 「儲かる株を見つけることが社会を豊かにする」とはどういうことか
第4章 儲かる株はどうやって見つけるのか
第5章 本来の株式価値を計算する
第6章 株式市場の効率化を助けるM&A(合併・買収)
第7章 企業価値の視点を持つ
第8章 企業の価値を最大化する経営とは

  • コングロマリットは株式市場でディスカウントされ、ピュアプレイが好まれるように変わってきている。
  • 負債の少ない会社は、間違いに対するのりしろ(Margin for Error)が大きい会社であり、企業買収の標的となる。
  • RAROC(Risk Adjusted Return on Capital)のようなリスク・収益管理体制と、企業価値向上をベースとする銀行内部の業績評価システムが結びつけば、「本部」と称される膨大な間接人員は不要。

第9章 金融の前線から
第10章 米国投資銀行の現場から
第11章 市場からレッドカードをもらわないために
コメント 市場参加者の適切なバリュエーション評価や、企業買収の実践が、市場における公正な評価を促し(グレアム理論)、金融を効率化することができるとの見方には異論なし*1。ただし、経済や金融に対して、企業買収の現場に身を置く著者が持っているような知識や「ものの見方」を、各個人が家計の側からみる場合にも持つことができれば、自殺を防ぐこともできるといった見方はあまりに楽観的過ぎまいか*2。不完全情報や合成の誤謬*3、総需要の不足から完全雇用ではない現状といった面は重要視されておらず、公正な市場取引を確保することで社会厚生が高まる十分な余地がある*4との無意識は、序章を読んだ時点で感じられた。タイトルの通り、個々人(ミクロ)のサバイバルを意図するものであれば、あえてこのような大風呂敷を広げる必要もない。
株式市場に関するシャープ/マクドナルドの考え方を対比しているが、私的にはシャープの考え方に近く、株価は将来の不確実性を織り込んだ上での公正価値を示しており、そこから確実に利益を得るには、「インサイド」の情報を利用するか、市場参加者の平均的な効用と異なる自分にとって特有の効用を得ること(株式優待など)以外にはないと考えている。その意味では、投資先企業の将来キャッシュフローの見積りを他者よりも確実にできる者は、それはそれで適切に「インサイド」情報を利用していることとなる。しかし、企業の内部環境に関与することが可能な著者のような者は別として、一般の市場参加者にとっては、効率化が進んでいる現状の株式市場の下、合法的にそのような実践を行うことは果たして可能か。
いずれにせよ、企業買収のような現場にいる者のメンタリティを知る上で、読む価値はある。

*1:金融が効率化することと、マクロ的に経済環境が好転することは別問題ことには留意。

*2:pp.17-19

*3:むしろ、用語の使い方(p.235)に違和感。

*4:パレート改善の余地がある。