備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

木村武、藤原一平、黒住卓司「社会の経済厚生と金融政策の目的」(日銀レビュー)

  • 物価の安定が国民生活の安定及び持続的な経済成長にとって重要な理由は、①相対価格のシグナル機能の発揮、②将来の物価変動に関する不確実性の低下*1、の他、③靴底費用の低下*2、④税制を通じた投資抑制効果の軽減*3がある。
  • 価格粘着性が高まると(シグナル機能は低下)、相対価格の歪みが拡大し、一般物価も上昇。ここで収穫逓減型の生産関数を前提にすると、同じ生産量を生み出すために家計はより多くの労働を投入する必要が生じ、経済厚生は悪化。
  • 現実の世界では、「同質な財」(素材、中間財)は、「差別化された財」(製造業最終財、サービス)に比べて伸縮的。資源配分を最適に保つには、価格粘着性の高い後者の財で、かつ国内品価格の安定を目指すことが望ましい。
  • ニューケインジアンのモデルによれば、社会の経済厚生上の損失 nearly equal.(インフレ率)^2+a・(GDPギャップ)^2 a(>=0):GDPギャップ安定指向度。インフレ率の安定とGDPギャップの安定の間には、(価格ショックを通じた)トレードオフが生じ得る。aは、①価格の粘着性*4、②製品需要の価格弾力性、③経済のグローバル化、④企業の価格設定方法*5の影響を受ける。
  • ニューケインジアンフィリップス曲線の一般型は、dp(t)=r・dp(t-1)+(1-r)・E(t)・dp(t+1)+g・GDPGAP+p.shock。金融政策の目標は、フィリップス曲線を制約条件として、社会の経済厚生上の損失を最小化すること。
  • aを低下させる影響を与える要因は、また、フィリップス曲線の形状、つまりgを小さくしたり*6、rを大きくする要因となる。
  • 賃金の粘着性があると、相対賃金に変化が生じ、企業間の労働需要に格差。この場合、同じ産出量を維持するにはより多くの労働投入が必要。このため、社会の経済厚生上の損失の式は、(インフレ率)^2+a・(GDPギャップ)^2+b・(名目賃金変化率)^2。例えば、生産性の上昇は実質賃金の上昇をもたらすので、インフレ率と賃金変化率を同時にゼロにすることはできず、トレードオフが生じる。

*1:リスク・プレミアムの上昇や予期せぬ再分配の発生。

*2:フィッシャー効果(インフレによる長期的な名目金利の上昇)に伴い、現金保有の機会費用が上昇し、人々が銀行に頻繁に通うようになることによる仕事や余暇時間の犠牲。

*3:インフレによる実効税率の高まり。

*4:価格粘着性が高いと、相対価格が歪んだ状態が長く続くこととなり、労働・生産要素の資源配分の歪みが長期化し、社会厚生が悪化。この場合、aは低下。

*5:バックワード・ルッキングな価格設定方法を採る企業が多いと、資源配分の歪みが大きくなり、aは低下。

*6:例えば、価格粘着性が高いと製品価格の改定頻度が少ないため、製品の需給環境(GDPギャップ)が価格に反映される割合が小さくなる。