備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

吉本佳生「金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか」

金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)

金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか (光文社新書)

コメント 金融機関が家計向けに提供するサービスは商品である。しかしながら、この本からの率直な印象では、分析の対象が、果たして商品として扱われているのだろうか(例えば、単なるギャンブルと見なしてはいないか)、という点に疑問を持つ。商品として考えると、まず、顧客からの預かり資産と販管費を購うための手数料等の付加的な要素に分けて考えるのが自然である。預金については、付加的な要素については支払利子の低減部分ということになるが、現状においては、限りなくゼロに近いことが想像できる。近年、銀行等が手数料収益を志向する傾向については、このような背景を考えると致し方がない面もあろうか。また、セット販売による優遇金利やネット銀行における高金利というのも、このように付加的な要素という点も踏まえて考えれば、かなり見通しの良いものになる。*1
加えて、情報の非対称性があると同時に、一旦その価格が市場均衡から乖離すると、摩擦的要素が小さい分累積的な不均衡状態に陥り易い金融商品の持つ特性というものを考えると、それが端的に現れるのは保険商品*2だと考えているが、本書ではそれが扱われていないのが残念である。
なお、本書で取り上げられる金融広告は非常に多様でかつ確かに姑息な面も否定できない。このように多様な金融商品が生じることが、本来必要のない中間的な専門家層を生じさせ、ひいては顧客に付加的な費用を発生させているといったら下衆の勘ぐりであろうか。その意味で、最後に論じられる規制強化については、その考えの皮相さは否めない。規制というものは、必ずしも著者の考えるようなものだけではなく、会計基準、情報開示や契約時のあり方等「市場による規制」を働かせるための仕組みも含まれることを理解すべきではないか。*3本書は、金融商品を選ぶ際のガイドブックとしては良書であろうが、それにしては大風呂敷の感があり(「はじめに」での金融業界に対する罵倒や、前述の規制及び金融サービス環境に係る提言等)、より謙虚な姿勢が望まれるところ。

*1:以下、本書への批判として必ずしも的確ではないが、一般論として言えば、広告費用のみを顧客からの預かり資産と合算して損得を考えるという姿勢には片手落ちの感があり、資産管理に係る機会費用、保険商品のもたらすオフバランス効果、借入により得られる異時点間の効用改善効果(清水谷論「期待と不確実性の経済学」にあるフィッシャー・ダイアグラムに係る議論)等金融商品のもたらす顧客便益も踏まえて分析する必要があると思う。

*2:狭義の意味であるので、年金は含まない。

*3:確かに多様な金融商品を標準化すべきというような論者も時々見かけるが、このような意見には、時代錯誤も甚だしいものがある。