ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

若田部昌澄「改革の経済学 回復をもたらす経済政策の条件」

改革の経済学

改革の経済学

第1部 改革とは何か

  • 経済学の2つの原則は、「人はインセンティブに反応する」と「ただのランチはない」。
  • 年金の予算制約式は、(1人あたり年金支給額)={(現役世代人数)/(老年世代人数)}×(保険料率)×(1人あたり所得)。({ }内は、1+人口成長率と一致。)給付水準を維持するには、労働力人口を高めること、少子化対策は意味があるが、その政策効果は不確かであり、所得を増加させるためのデフレ対策がより望ましい。
  • 生産性の向上を国の政策で実現するのは困難。もし可能であれば、社会主義の失敗はなかった。
  • 出生率と1人あたりGDPの関係をみると、出生率はある所得水準までは下がっていくが、そこから先は安定する。(ブロダら)
  • 実質GDP成長率と新規開業率には正の相関関係がある一方で、政府は起業家を直接支援できない(インセンティブと能力の問題)。産業政策の理論的根拠は、何らかの意味での収穫逓増現象であり、産業政策が正当化されるのは、特定産業への支援による経済成長の促進効果が、他の産業へ与える犠牲を上回る場合。

第2部 改革を支えるもの

  • 昭和恐慌のデフレ期には、新規設立企業の資本金が低下。また、カバレロ、ハマーによると、米国の製造業の雇用データでは、不況を経験すると(企業に固有の資産が破壊されることを防ぐため)リストラは進まない。
  • 日銀の金融政策における「なお書き」変更は、金融政策の効果が出るのにほぼ1年はかかるという経験則を考慮すれば、来年にかけて景気に悪影響を及ぼす可能性が高く、一定の条件の下で期待インフレ率と解釈されるブレーク・イーブン・インフレ率(長期国債の利率−物価連動国債の利率)もこれをきっかけに減少。
  • 日本の潜在成長率は、今後10年間、人口が減少するにしても2%強はあるとの研究があり、インフレ目標政策により、名目成長率を4〜6%に乗せることは可能。年金や財政の問題は人口動態によるところが大きいが、その一部でも解決するなら、これほど喜ばしいことはない。

第3部 改革への道

  • インフレについては、一般の人々が経済学者とは異なる考えを持つことが知られており、雇用主と関連づけて「企業の強欲さ」という見方をしたり、為替の下落から国家の威信を傷つけるとまで考えている。政策担当者には世論に即した政策を行う誘因がある。誰もが経済とは切り離せない中で生きており、「素人」こそ経済学の要点、勘所を押さえる必要がある。
  • 「ただ目標を唱えるだけでデフレから脱却できる」わけではなく、岩田規久男氏・中原伸之氏ともに、量的緩和とインフレ目標の「組み合わせ」を強調。重要なのは、宣戦布告、部隊展開、実弾発射を同時に行うこと。

コメント 最初に、近年取り上げられた年金、財政、郵政民営化ニートなどの問題について、需要側の要因をみないなどバランスを欠いた議論を批判すると伴に、マクロ経済学の考え方や過去の歴史から得られる教訓などを基に、適切な議論はどういうものかを論じる。後半は、「世間知」が「専門知」と解離することの問題が論じられる。専門家でなくとも、「専門知」への敬意を失い、教養を身につけることをしないことは、政策担当者が自身のインセンティブに従い、不適切な政策とることによって、自分自身の不利益にも繋がる。その意味では、マスコミの「罪」も大きく、当然、批判の矛先はそこにも向けられている。さて、自分自身を振り返って考えてみると、マクロ経済学の考え方が曲がりなりにもワカタ気がするようになったのは、取引を複式簿記的にみる見方に馴染んできたことが大きい気がする。複式簿記的に考えれば、例えば、貿易・サービス収支のマイナスと資本の流出(資本収支のプラス)が両立し難いことは直感的に理解できるわけであり、企業会計を生業とする人にとっては、本書のようなマクロ経済学に基づく議論について、本来的には常識的であって然るべきなのかも知れない。