ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

本田由紀、内藤朝雄、後藤和智「「ニート」って言うな!」

「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)

第1部 「現実」−「ニート」論という奇妙な幻影

  • 「無業者」は、「求職型」「非求職型」「非希望型」に分けることができるが、著しく増えているのは「求職型」。一方、「働く意欲がない」とされる通俗的な「ニート」のイメージに近い「非希望型」は、この10年間、見事なほど一定の人数で推移。また、「非求職型」「非希望型」についてだけみても、特に何もしていない「純粋無業」の者は1/3程度。
  • 英国で生まれた「NEET」という概念は、「社会的排除」の問題と緊密に結びつけられており、貧困や低学歴、あるいはマイノリティであることなど、様々な困難が集中している極めて不利な立場にある人をいかにして救うか、というところから派生。日本では、中産階級の子弟に多いと言われる「ひきこもり」と重ね合わせられてしまった点が問題。また、「非求職型」(働く意欲あり)の者と「フリーター」「失業者」との間の「線X」が、必要以上に強く意識される。
  • 本来、支援が必要とされるのは、「非求職型」(働く意欲あり)+「フリーター」「失業者」という、「不安定層」と、働く意欲のない者の中でも、「犯罪親和層」「ひきこもり」などの「不活発層」。
  • 「不安定層」が増加した要因は、①人口構造、②女性の労働力率の上昇、③グローバル化による人件費削減要請と生産サイクルの短期化による労働力の量的柔軟化の要請、といった要因が重なり、日本の若年労働市場の特性である「学校経由の就職」が縮小し、非典型雇用への企業の依存が高まったこと。一方、「学校経由の就職」が依然として若年者の典型雇用へのほぼ独占的な採用ルートとして機能しているため、いったんそのルートから外れた者が正社員になれるチャンスは閉ざされている。
  • 目指すべき若年労働市場は、いったん大半の若者が非典型雇用や時間をかけた求職活動等を行い、徐々に、安定した長期的に働きうる正社員の仕事に移行したり、非典型雇用のままでも生きていくことが可能なモデル。そのための条件として、教育の職業的意義を高め、典型雇用と非典型雇用の間の「線α」を薄くする(流動性を高め処遇格差を縮小すること)等の施策が求められる。

第2部 「構造」−社会の憎悪のメカニズム

第3部 「言説」−「ニート」論を検証する

コメント 多様な働き方を実現する社会モデルにとって、上記の最後に指摘されているような各種の条件(インフラ)が必要になることを強く認識した。*1その上で、このようなインフラを前提に形成される社会モデルを一つの極と考えると、新卒から長期雇用という従来の「日本型」モデルも、もう一方の極にある。後者の強みは、企業による効率的な職業訓練と、長期的雇用というコミットメントを通じて、雇用者の高い意欲と仕事への関与を引き出すところにある。前者のモデルがそれを乗り越えられるかは、「教育の職業的意義」や企業外の職業訓練がうまくワークするするかにかかっている。自分としては、企業を成長させる原動力は、(勤労者の価値観の多様化などの現実の変化はあるにしても、)相変わらず後者のモデルの方が強力であると考えており、前者のモデルが目指すものは、むしろ「定常型社会」のような社会モデルであるように感じられる。とすると、そもそも目指すところが違うことになるが、それに加えて、「正社員の処遇を一定程度切り下げる必要が出てきますが、それはやむを得ないと考えます」といった記述をみるにつけ、一時的な低成長(+高失業)を許容する議論にもみえてくる。これは、若年者にとっては、(一時的にしても)自身の首を絞める議論であるのだから、「リフレ政策を所与」とした形で議論する必要はあると思うし、より企業にも目線を向ける形で今後、さらに議論が深まることを期待したいところ。

*1:本書の良いところは、このように、あるべき社会モデル(雇用システム)についてのビジョン(本書にある「図C」)を曲がりなりにも示している点であろう。