備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

「パートタイム労働者の賃金」(労働、社会問題)での議論に関する備忘録的整理

問題の全景を充分に把握していない可能性は留保しつつ、取りあえずまとめてみる。「若年問題を経路」として問題提起すべき、とした意図は、中高年化しつつある「フリーター」には、階層化の傾向がみられることが背景にある。それと、以前のエントリーで触れたように、近年の景気回復局面の中においても、正規従業員は相変わらず減少し続けている。ただし、景気回復による恩恵は、新規学卒市場には徐々に現れ始めており、就職率は上昇している。
企業が将来の不確実性を意識し、正規従業員の採用に消極的になっていることの背景には、製品サイクルが短期化し、大型小売店の価格決定力が相対的に高まるなど、市場競争が激化する方向への経済構造の変化*1もあるだろう。ただし、経済がデフレからインフレ基調となった場合、商品へのマークアップが容易になり、財政・金融政策のコミットメント効果により、将来の不確実性は低下する。この場合、企業の採用意欲は高まり、正規従業員が増加に転じる可能性もあるだろう。問題は、階層化した「フリーター」が、確実にリフレの恩恵を受けるには何が必要か、ということである。彼らが、そのような階層に落ち込んだのは、たまたま「時代が悪かった」ということの要因が大きく、結果、十分な職業訓練機会に恵まれず、仮にあったとしても、それを外的に評価する基準がない現状で、果たして再挑戦は可能だろうか。
それを可能にする仕組みとして、労働の価値を外的に評価し、同一価値労働同一賃金を推進する、という方向性も理念としてはあり得るだろう。しかし、正規従業員に係る現行の日本的昇給ルールを変更し、労働条件を切り下げることは、労働者の企業に対するロイヤルティと労働・能力開発意欲を低下させることで、生産性は低下する。また、恒常的な所得が減少することから、消費も減少する。ひいては、持続的な成長経路を疎外することにも繋がるだろう。このため、改革は漸進的なものである必要があり、その意味で、就業形態間を行き来できる仕組みや能力開発システムの抜本的改革といった、今回の議論から出てきた知見には、階層化の問題を解消するための手段としてのフィージビリティーを感じた次第。*2

*1:言うまでもないが、市場競争の激化と対で語られることの多い「グローバル化」「国際競争力の低下」といったキーワードは、一つの製品を基準に議論するのであれば兎も角、日本のような先進国の貿易に関しては「妄説」である。国家間の貿易は、マクロ的には比較優位の原則で決定され、貿易黒字は貯蓄・投資バランスで決まる。「国際競争力」を語るのであれば、まず、その定義を確認する必要がある。

*2:この議論は、人口減少、定常型社会モデル、同一価値労働統一賃金...といったキーワードを通して、最終的には、将来の社会モデルや雇用システムに関する一つの理念型を論じることに繋がっていくのだが、現時点では荷が重いので、また考えがまとまったら整理してみる。その前に、田中・バーナンキ本を整理し、大竹本を読まなキャ。