ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

量的緩和政策の解除について

よく見る経済系ブログでは、ほとんど、反対(もしくは否定的見解)が表明されている。*1この問題に関しては、考えが十分にまとまっているわけではないが、とりあえず、最近読んだ大竹文雄「経済学的思考のセンス」における以下の記述を素材にして考えてみる。

失業とインフレ率の間に、短期的には失業率が高いとインフレ率が低くなるというトレードオフの関係があるが、長期的には失業率が自然失業率と呼ばれる完全雇用に対応した水準で決まっていてインフレ率とは無関係になっているとしよう。日本銀行は、失業率もインフレ率も低い組み合わせを達成することを政策目標にしていると考えよう。日本銀行がとるべき一番いい政策は、ゼロインフレ政策を宣言することである。もし、国民が日銀のゼロインフレ政策を信じることが出来れば、期待インフレ率がゼロにあり、長期的には自然失業率とゼロインフレが達成できる。

基本としては、このベースに沿った経済運営が正しいと考えるが、ここで考慮すべき論点として、①「ゼロインフレ」とは何か、②国民は日銀のゼロインフレ政策を信じるか、③「短期」の問題をどのように考えるべきか、という3つの論点が挙げられる。まず、①については、ボスキン・バイアスの存在から、必ずしもコアCPI=0であることが「ゼロインフレ」を意味するわけではなく、また現在の消費者物価の上昇はコストプッシュ型であり、短期の要因を除けば、CPIがゼロ以上とはならなかった可能性もあることが問題となる。ただし、石油製品の要因を除いても、コアCPIが上昇傾向にあることは事実であり、企業収益の改善傾向や現金給与総額の上昇傾向*2、加えて雇用者数の伸びが強い動きを示していることも、それを補う要因と考え得るのかも知れない。②については、量的緩和政策に伴う負の効果はほとんど無く、量的緩和政策の解除は市場の動きの後を追って行うべきとの声も聞かれる中、このタイミングで量的緩和政策の解除を実施することは、引き締め気味の金融調整が今後続いていくとの印象を広げることになるのではないか。最近の為替相場や株式市場の動きをみるにつけ、悲観的になる。③については、現下の経済状況をどう判断するかに左右されるが、デフレからの脱却を確実なものとすることを第一義と考える上では、より高い物価上昇を当面目標とし、期待インフレ率を高めていくことが必要である。
「短期」の経済情勢をどう判断するかは、現下の物価水準をどう考えるかを含めて、認識の違いに左右される要素ではあるが、仮に長期的な金融政策の枠組みだけを考えるとしても、日銀は、現下の物価水準が「ゼロインフレ」であることを説明し、「ゼロインフレ」政策が今後も継続することを国民に信用させる必要がある。これまでの状況をみる限り、必ずしも、そのことが十分に行われているとは考え難い。インフレ目標政策の採用など期待に働きかける次のステップを踏まえた上で、量的緩和政策を解除する方がベターだったのではないかと思われる。
さらに、「短期」の経済情勢判断に依る部分にも若干触れると、個人的には、日本の均衡失業率は3%半ば程度と考えている。雇用情勢は、雇用者数を中心に強い動きを示しているものの、景気の回復傾向を確実なものとする上では、今後の失業率の動きをもっと見定めた上でアクションを取った方がよいのではないかとの気持ちを持つ。*3

*1:この問題については、溜池通信が、これらの論者とは別の立ち位置を取っている模様。

*2:この点については、「ダム理論」が話題となった2001年時のゼロ金利解除の頃と違い、明らかに上昇している。

*3:直近の失業率(季節調整値)は、4.5%(18年1月)。