ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

藤原総一郎「企業再生とM&Aのすべて」

企業再生とM&Aのすべて (文春新書)

企業再生とM&Aのすべて (文春新書)

1 今なぜ企業再生なのか

  • 私的整理、法的整理などの企業再生システムは、企業のBSを改善する手法。過大な金利負担から解放され、本業で得た収益を本業への再投資に回せるようになり、無駄な資産を売却することにより、資本効率が向上。しかし、BSだけを改善しても企業が完全に立ち直るわけではなく、PLの改善が不可欠。

2 企業再生のシステム

  • 企業の資産が目減りした状態で、ステークホルダーが早い者勝ちを狙い我先にと回収に走ると、その企業は全ての債権者に弁済することができず早晩破産に陥る。企業として存続する限り企業価値は継続企業価値を維持するが、破産となれば清算価値となる。企業再生とは、全ステークホルダーWin-Win構造になることを目的とするもの。
  • 法的整理と比べた私的整理のメリットは、企業価値の劣化の程度が少ないこと。法的整理の場合、各ステークホルダーの優先順位は法律により一義的に定まるため、取引先の売掛債権や銀行の貸付債権(担保付債券を除く)は、租税債権、賃金・退職金債権よりも優先順位が低くなる。このため、法的整理となった場合には、企業は取引先からの信用を失う。
  • ルールなき「話し合い」では、メインバンクと非メインバンクの間に企業の再建に向けた温度差があり、「メイン寄せ」が生じやすい。その弊害から、経済合理性が高いはずの私的整理が活用されない事態に着目し、「私的整理ガイドライン」は設けられた。
  • 全債権者の賛成が前提となる私的整理に対し、民事再生手続、会社更生手続といった法的整理では、多数決により決定された再生(更生)計画を反対債権者にも強制することができる。民事再生手続では、経営者が続投でき、無担保一般債権のみを権利変更の対象とするのに対し、会社更生手続では、裁判所の選任した管財人による更生計画により、全ての権利を権利変更の対象とすることが可能。

3 企業再生とM&A

  • 営業譲渡を行う場合、譲渡する事業がその会社の全部または重要な一部であれば、株主総会の特別決議による承認が必要。また、移転する事業を構成する債務や契約上の地位を移転する場合、個別に債権者等から同意を取得しなければならない。このため、債権者等が多数の場合、利用しにくい。
  • 会社分割は、株式を対価として事業を譲渡する方法。分割の条件等について記載された書面について、分割会社・承継会社の株主総会の特別決議による承認が必要。債権者に対しては、債権者保護手続(特別決議から2週間以内に、分割に異議があれば一定の期間内に異議を述べるべき旨公告・催告する等)がとられる。加えて、従業員との協議、移転させる事業に主に従事する従業員やその事業に主に従事していないにもかかわらずその事業とともに移転させられてしまう従業員に対する通知などを行う必要があり、従業員は、これらの通知に対し、異議を申し出ることができる。
  • 株式移転は、ある会社が自社の完全親会社を設立する手法であり、株式交換は、ある会社が既に存在している会社を完全親会社とするスキーム。

4 アメリカの企業再生

  • アメリカの民事再生法にあたる連邦倒産法Chapter11では、手続を開始するか否かを裁判所が判断することなく、申立てと同時に全ての債権者の個別的な権利行使が禁止される。Chapter11の間口は広く、資産超過会社による申立てや、損害賠償の支払い回避、労働協約の破棄のために申立てた例がある。

コメント コンパクトでかつ実例も豊富。