ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

石川達哉「年齢階層別に見た経済的格差の動向」(ニッセイ基礎研REPORT 2006.6)

  • 長期的には、課税前所得のジニ係数は高まる傾向がみられるが、総世帯における年齢構成ウェイトを基準時点の値で固定し、各年齢階層における所得階層別の平均所得と世帯数割合については実績値を用いて、ジニ係数を試算すると、80年代以降の上昇傾向はみられない。したがって、単純なジニ係数の観測値は、人口の年齢構成変化の影響を強く受けている。
  • 年齢階層別所得のジニ係数は、時点を問わず、年齢が高いほど大きい。しかしジニ係数は、年齢階層によって著しく異なった動きをしており、70歳以上においては、89年から縮小が続いているのに対し、30歳未満では拡大が続いている。高年齢層の格差縮小の要因はわからないが、若年層の格差拡大の要因は、90年代以降の経済の低迷の中で、雇用や賃金の調整が、特に新卒者や若年層に対して厳しく行われたこと。
  • 金融資産に対するジニ係数についても上昇傾向がみられるが、課税前所得の場合と異なり、年齢構成ウェイトを85年実績で固定しても、時系列的な変化の傾向はあまり変わらない。年齢階層別資産格差を四分位分散係数でみると、金融資産については20歳代後半から縮小し始め、30歳代後半に最も小さくなるのに対し、総資産については、20歳代後半から30歳代前半までの間は一旦格差が拡大し、30歳代後半から格差の縮小が始まり、最も小さくなるのは50歳代以降。
  • 年齢階層別の資産格差については、2000年代に入り全ての年齢階層で高まっていることが特筆され、現金以外の金融資産を全く保有しない世帯の割合が急上昇していることの影響を受けている。所得の少ない人が金融資産を保有しなければ、失業、疾病などのショックに対し脆弱。格差が存在することに意識を奪われるあまり、経済的に成功した人を素直に賞賛する心を欠いたりすることは論外であるが、一部で格差が拡大しているという事実から目を背けたり、格差の問題が存在しないかのように論じたりすることもあってはならない。

コメント 後半の資産格差については、格差問題に対する分析の新たな切り口を提示している。最後のところも、バランスよくまとめられており、素直によい論考だと思う。ウェイト固定ジニ係数と現実のジニ係数の差をとることが、必ずしも正確な要因分解とは言えないため、その見方には留意する必要があるのだろうが、総じて方向性に間違いはないものと思われる。*1

*1:同様の手法を使えば、就業構造基本調査による若年層での所得格差の拡大(平成17年版国民生活白書)を、正規雇用比率の低下で説明できる。