ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

山本一郎「「俺様国家」中国の大経済」

”俺様国家”中国の大経済

”俺様国家”中国の大経済

コメント 高い成長を続ける中国経済に対する悲観論。中国の高度成長については、日本の高度成長期に準え、工業化と内陸部からの人の移動による賃金上昇の抑制によって投資が拡大する、といったルイス・モデル的理解がされがちであるが、現実には資本の大規模な投入によるもので、その一部は不動産投機に向かっている。(そのような過剰投資を可能としたのは、日本や米国の金融緩和に伴うワールド・ダラーの拡大。)また、北京五輪や上海万博に伴う公共事業による経済成長率の押し上げは、全体の成長率の大半を占めるとする。上記のような理解が誤りであることは、中国国内の人の移動に制限があることや、深セン・上海での賃金上昇によって傍証される。欧米からの対中国投資は、既に減少過程にあるとされ、これまでの過剰投資が今後バブル崩壊という結末をもたらす可能性(経済が内需主体の経済構造を構築できるまで投資は待ってはくれない、つまり、「資産」と「負債」のデュレーションにはずれがあること)が示唆されている。
 それ以前に、統計の信頼性が不十分で、中国経済の現実は「誰にも」(!)解らない。また、それ以前に、中国には、資本主義経済の前提である(不動産の)私的所有の権利すら存在しない(!)。
 資源・エネルギーに注目すると、日本は、世界が平和だから市場でそれを調達することの恩恵を受けてきたが、地政学的なリスクが表出することや、中国の経済成長による需要の拡大により、忽ち大きく割を食うことになる。このことは、デフレ脱却に一定の目処がついた日本にとって今後重要性が増してくるのは、外交や安全保障の側面であることを伺わせる。*1
 産業はプラスサム・ゲームだが、市場や金融はゼロサム・ゲームといった話や、「それほど多くの人間が同時に豊かになれるように地球全体ができていない」といった話など、必ずしも納得・理解が及ばない点もあるが、中国経済やそれが孕むリスクというものをまともに考えたことがなかった自分にとっては、かなり「目から鱗」。

*1:この点について、「1バレル70ドルで計算すれば、「赤字だから」ということで廃止された石油公団は立派に黒字であった。」(溜池通信7月19日付け不規則発言)といった話は示唆的である。