備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

熊野英夫「フリードマン教授が遺した宿題〜不安定なフィリップス・カーブの中で〜」(第一生命経済研究所)

本稿の内容 フリードマン教授の自然失業率仮説は、失業率とインフレ率のトレード・オフの関係を示すフィリップス・カーブは短期的にしか成立しないというもので、政策的なインプリケーションとしては、金融政策によって雇用拡大を目指しても長期的にはインフレしか生まず、中央銀行はマネーサプライ管理に集中すべきという議論。しかし、実際の経済政策運営では、暗黙のうちに裁量主義に立脚し、短期と長期の相克を顕在化させることはないという「前提」を受け入れている。1981-2006年間のインフレ率を修正失業率を説明変数として線形回帰させ、インフレ率のバイアスを0.5%と考えると、ゼロインフレは日銀が量的緩和解除・ゼロ金利解除に踏み切った時期の失業率水準と対応する。安部政権の下での経済成長戦略の下で、日銀は「物価安定の実現」を担うが、その解釈が「今はデフレだから金融緩和がもっと必要」という意味に傾くと、金融政策を過度に縛り期待インフレ率の上昇を誘発する。ただし、今のところ政府と日銀の関係はうまくバランスがとれている。

コメント 熊野氏の論考は前にも何度か読んだことがあるが、こうした考えの持ち主であったとはこれまで寡聞にして知りませんでした。本稿の分析については、①期待インフレ率を0.5%とし、その上昇を誘発させることには否定的である点、②非労働力化率を固定した修正失業率を使用しているが、その場合、景気循環に応じて変動する就業意欲喪失効果が過小に評価される可能性、③そもそも80年代以降のインフレ率と失業率の関係は安定的と言えるか、といった点に違和感を持つが、いずれにせよその評価は自分の手を動かしてみないと何とも言えない。*1

*1:なお、自然失業率の水準を考える上での別のアプローチとしてUV分析による均衡失業率がありますが、その最新の推計がecon-economeさんのエントリーにあります。