ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

ベンジャミン・フルフォード「ヤクザ・リセッション さらに失われる10年」

ヤクザ・リセッション さらに失われる10年 (光文社ペーパーバックス)

ヤクザ・リセッション さらに失われる10年 (光文社ペーパーバックス)

コメント まあ、本書に含まれるミクロの事実の中に「事の真相」に類するものが含まれる可能性は否定し切れないが、少なくとも、これらのミクロの事象がマクロの長期不況の要因であるとの論理展開には無理があり過ぎる。*1「巨悪への憎しみ」を煽り、その世論をベースとして著者が求める政策のハードランディング路線がマクロ経済に何をもたらすのか、またその不効用の大きさを鑑みるに、「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉を思い出さざるを得ない。
 なお、本書程度の内容であれば、この10分の1位の文章量で十分である。問題を大風呂敷にせず、ミクロの事象をジャーナリスティックに追っていただければ、それなりの価値も生まれてくる様な気もする。
 ところで、この本の凄さeccentricityの一端を6章以降の論理展開にみてみよう。先ず、著者の引用する「週刊現代」の記事によれば、日銀と財務省には将来のインフレ・ターゲッティング政策の導入に関する密約があるらしい。またこの政策によって賃金上昇以上に物価が上昇することが有り得るため「庶民の生活は苦しくなる」とされており、インフレ率とトレード・オフの関係にある失業率をどうみているのかは不明lack of foresightである。また、何故かは知らないがincoherently、金融緩和を実施しても「それ以上に」債券安になることがあるとし、その結果「日本経済はもたなくなる恐れがある」とする(pp.215-217)。さらに著者によれば、インフレ・ターゲッティング政策は、日本経済の本質的問題(ヤクザ・リセッション)の解決を先送りにし、ひいてはハイパー・インフレーション(1日若しくは数時間単位で貨幣価値が変わるようなインフレのことで、標準的な定義では年率13,000%以上のインフレ)をもたらして「一般国民の生活は崩壊collapseしてしまう」らしい(p.256)。しかしながら「貨幣の改鋳」については数少ない日本の選択肢のひとつであるとされており(pp.260-261)、それ以前の議論との論理的整合性が凡夫の身an ordinary manには理解できない。このような議論の展開や論理の奇抜さは正に香ばしさrotten smellを感じさせるものだと言えよう。

*1:これらミクロの問題の解消に企業開示の精緻化やより厳しくなった金融検査の在り方が一定の寄与をしたのは事実であろう。ただし、この件は、むしろ不況の方向へ作用するものであり、マクロ経済の回復をもたらした理由はまた別のところに求める必要がある。