ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

加藤涼「現代マクロ経済学講義 動学的一般均衡モデル入門」(その3)

現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門

現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門

第4章 労働市場の不完全性−労働市場のサーチと産業構造調整−

  • 労働市場の不完全性に係るモデルとしては、労働者に賃金交渉時の一定の独占力があることを認める粘着賃金モデルがあるが、ここでは、転職や採用活動が無コストではなく雇用調整速度が遅くなるサーチのモデル、特にPheran and Trejos(PT)モデルを取り上げる。経済は3財・3業種からなるとし、それぞれ、衰退産業、成長産業、中立産業とする。また、ここでは各経済主体が個々に最適化行動を行った結果としての均衡状態とは別の、社会計画問題の最適解という解概念を用いる。
  • 雇用のマッチング関数を ei(t)=s・mi(t)^φ・u(t)^(1-φ)…(4.1) i:産業 e(t):t期の新規雇用*1 m:求人活動 u:失業者 と、一時同次のコブ・ダグラス型とする。総雇用者数は、Ni(t+1)=Ni(t)・[(1-γ)+ei(t)]…(4.2) γ:離職率 とする。*2一方、生産関数は、xi(t)=zi(t)Ni(t)・[hi(t)-mi(t)]…(4.3) z:技術水準 h:労働時間 と、生産要素となる労働投入量に対し線形とし、求人活動に費やす時間に応じて生産は低下する。家計部門全体の効用関数を U(x1,x2,x3)-λΣNi・[hi^(1+μ)]/(1+μ)=Σ[ai・xi^ρ]^(1/ρ))-λΣNi・[hi^(1+μ)]/(1+μ), a3=1-a1-a2 とする。
  • 状態変数Niに関する価値関数を用いたベルマン方程式 V(Ni(t))=max[U(xi)-λΣNi・[hi^(1+μ)]/(1+μ)+EtβV(Ni(t+1))] s.t. (4.2), (4.3), u=1-ΣNi をセット。右辺の1階の最適化条件からV'(Ni)を消去し、xi, uiも消去され、最終的にhi, mi, Niについての線形差分方程式(係数行列は9×9)がセットされる。
  • ここで、定常均衡状態をNi(t+1)=Ni(t) i.e. γ=ei(t) とする。このため、定常均衡においては、m1=m2=m3=mとなる。パレート最適の条件より消費者の限界代替率*3は、生産者の限界変形率*4に一致。また、生産関数は(生産要素に対し)線形であることから、限界変形率は技術水準の比で表され、ui/uj=zj/zi が成立。(4.3)よりh1=h2=h3=hが成立。
  • 上記の事実と、限界効用に生産関数を代入した式からN2/N1=Γ2, N3/N1=Γ3を書き下すことが可能となり、1階の最適化条件式と併せてu=(s・m^φ/γ)^(1/(φ-1))…(4.4), m=[β・γ・μ(1-φ)/(1+μ)]h…(4.5) となる。
  • (4.1)を対数表記したベバレッジ・カーブをlnei(t)=b0+b1・t+φlnmi(t)+(1-φ)lnu(t)+υ(t) とする。つまり、マッチングの効率性sはトレンド項を持つこととする。米国と日本のs値を比較すると、日本のs値は米国の1/3程度で、b1についても、日本ではマイナスであるが米国ではプラス。また、日本の労働市場の効率性は低く、近年さらに低下した。
  • γ、ρ、β及び均衡失業率u*のカリブレーションを行う。ziについては、それぞれ成長・衰退・中立産業となるように適当な設定を置く。なお、ここでは定量的分析は行わない。
    • ①需要が衰退産業から成長産業へシフトし、②離職率は変わらないケースを考える。衰退産業・中立産業では、雇用は緩やかに減少し、労働時間は急激に低下した後緩やかに当初の水準に戻る。中立産業については、選好を示すパラメータa3がショックの前後で変化しないが、「最適な消費割合」が変化することで余暇の限界効用が高まり、雇用は減少する。公共事業や政府支出は、量ではなくその質を吟味すべき。
    • 離職率が恒久的に上昇する場合、失業率の平均水準が上昇し一時的な上昇幅も拡大。一方、流動化促進策によりs値が低下するケースでは、一時的な上昇が小幅に抑制され定常均衡における失業率も低下。最低賃金を保障する政策は、企業の雇用コストを増加させ、労働需要を減らすことで労働市場流動性を低下させる。一方、低所得者層の稼得に対する所得税額控除は、失業者が自助努力により職を得ようとするインセンティブを高める。

コメント マッチングの非効率性の観点から労働市場に不完全性のあるモデルを検討。離職率一定で、定常均衡状態では失業へのインフローがアウトフローと一致する等強い仮定が置かれている。また、ここではs値の変化を「構造的な変動」としているが、循環的要因によっても大きく変動することが指摘されている。このため、均衡失業率がどの程度か等定量的な分析を行う場合には、困難さが伴うことになる。
 ただし、本書の最後で指摘される離職率上昇のケースに関する政策的インプリケーションについては、非常にリーズナブル。

*1:ネットの増減率。

*2:離職率は各産業・各期ともに一定。(P)

*3:無差別曲線xi=f(xj)の傾きdxi/dxjのことであり、pdu[/pdxi]/pdu[/pdxj]=ui/ujに一致。

*4:生産フロンティア曲線の傾き。