ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

武藤滋夫「ゲーム理論入門」

ゲーム理論入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ)

ゲーム理論入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ)

1.非協力ゲーム(1):行動決定が同時に行われる場合

  • 相手のどの戦略に対しても、戦略1の利得が戦略2の利得よりも大きい(以上である)場合、戦略1は戦略2を「支配」する(「弱支配」する)という。
  • 囚人のジレンマゲーム、社会的ジレンマ
  • 最適反応戦略:相手のある戦略の下で、自らの利得を最大にする戦略。ナッシュ均衡:お互いのとる戦略がそれぞれ相手のとる戦略の最適反応戦略となる戦略の組。支配戦略の組は唯一のナッシュ均衡。弱支配戦略の組、弱支配戦略と支配戦略の組は、ナッシュ均衡となるものの唯一とは限らない。
  • (各プレーヤーが有限個の純粋戦略を持つ場合に)混合戦略まで考えた場合、ナッシュ均衡(ある純粋戦略を選択する確率をそれぞれp, qとし、最適化された期待利得同士が重なるケース)は必ず存在する。
  • 生産量を決める2企業間の競争(クールノーの複占市場)。
  • マックスミニ戦略:最小の利得の中で最大の利得を得る戦略の組。どの純粋戦略の組においてもプレーヤーの利得の和が一定(ゼロ)であるゲームを定和(ゼロ和)ゲームという。2人定和ゲームにおいて、プレーヤーBのマックスミニ値は、プレーヤーAの最大利得の中で最小の利得を与える戦略となるので、これを「ミニマックス戦略」という。各プレーヤーが有限個の純粋戦略を持つ場合に混合戦略まで考えた場合、マックスミニ値とミニマックス値は一致する。

2.非協力ゲーム(2):行動決定が時間をおいて行われる場合

  • 部分ゲーム:展開形ゲームの部分で、A.1つの点だけを含む情報集合から始まり、B.その点から後に続く全ての点を含み、C.これらの点に関する情報集合は全てその中で完結するもの。部分ゲーム完全均衡:(1)全体のゲームのナッシュ均衡であり、(2)どのような部分ゲームに関しても、戦略の組の中からその部分ゲームに対する部分を取りだしたものはその部分ゲームのナッシュ均衡であるような戦略の組。
  • 完全情報:各プレーヤの情報集合が全て一点からなる場合。局所戦略:各情報集合でどの選択肢をどのような確率でとるかを定める戦略。各プレイヤーが自分の過去の行動を全て記憶している(完全記憶)ゲームにおいては、行動戦略の範囲でナッシュ均衡が存在する。
  • チェーンストア・パラドックス−「参入者に対して常に共存を図る」ことが合理的な行動。
  • 囚人のジレンマゲームの無限回繰り返しゲームにおいては、(裏切り、裏切り)とともに(協調、協調)もナッシュ均衡となる。相手が一度裏切りというトリガーを引くとそれ以後は永久に裏切りとする「トリガー戦略」はナッシュ均衡となり、割引因子の大きさ次第でトリガーを引くことは合理性を持ちうる。割引因子が1に近い場合のフォークの定理。

3.情報不完備なゲーム

  • プレイヤーAの「タイプ」を導入し、Aのタイプ別の選択の組と、その組の下でのプレイヤーBの期待利得によって、戦略形ゲームとして表現される。ベイジアン均衡:いずれのプレイヤーにおいても、各タイプにおける選択が他のプレイヤーの戦略に対する最適反応となっているような戦略の組。
  • プレイヤーBにタイプがある場合の展開形ゲーム表現において、Bがあるタイプである確率rとすると、(r, 1-r)を(当該情報集合における)Aの「信念」という。完全ベイジアン均衡:A.各情報集合において、その情報集合に該当するプレイヤーがその後の他のプレイヤーの戦略を所与とした上で与えられた信念の下で期待利得を最大にする行動をとり、B.各プレイヤーの戦略に基づくその情報集合に到達するまでの行動とその情報集合における当該プレイヤーの信念が整合的となる場合。
  • 中古車市場の展開形ゲームにおいて、「悪いタイプのプレイヤーBが中古車を持ち込み、Aが低い価格で買う」ことが(唯一の)完全ベイジアン均衡となる−逆選択

4.2人協力ゲーム:交渉ゲーム

  • 相関戦略と実現可能集合。交渉の基準点として、非協力ゲームのマックスミニ値を考える。
  • A.交渉の妥結点はパレート最適性を満たす、B.交渉の基準点における2人の利得が等しく実現可能集合が2人の立場を入れ替えても変わらない時、交渉の妥結点においても2人は同じ利得を得る(対称性)、C.交渉の妥結点は利得を図る際の原点や尺度に影響を受けない(正アフィン変換からの独立性)、D.交渉の基準点及び妥結点以外の実現可能集合が最初から除かれていた場合でも、交渉の基準点が変わらなければ妥結点は変わらない(無関係な結果からの独立性)、の4つを公理とし、これらの性質全てを満たす妥結点は実現可能集合の中に唯1つしか存在しない−ナッシュ交渉解。
  • 譲渡可能効用と譲渡可能効用ゲーム。

5.多人数協力ゲーム:特性関数型ゲーム

  • プレイヤーA,Bの提携と、提携によって得られる利得の高まりをυ{A,B}で表す。一人提携υ{A}=υ{B}=0 である。特性関数の優加法性により全員提携が導かれる。
  • プレイヤーA,B,Cの提携によるそれぞれの利得の取り分(XA,XB,XC):利得ベクトル とした場合、XA+XB+XC=υ{A,B,C}:全体合理性、XA≧υ{A}(他も同じ):個人合理性。これに加え、XA+XB≧υ{A}+υ{B}(他も同じ):提携合理性 を満たす配分を「コア」という。
  • 仁:各提携の不満の差を出来るだけ小さくしようという考え方に基づく配分。シャープレイ値:提携を構築する際の各プレイヤーの貢献度に基づく配分。

6.進化と学習のゲーム理論

  • 進化ゲームでは、プレイヤーの大きな集団を考え、そこにおける行動様式は個体に固有のもので選択肢ではない。進化論的に安定:ある行動様式で占められている集団において、他の行動様式を持つ個体が小さな割合で生まれたとしても、元々の行動様式を持つ固体の期待適応度の方が大きい場合。進化論的安定戦略の組はナッシュ均衡となるが、逆は言えない。
  • 動学的均衡:同じ状態が繰り返し続いていく場合。進化論的安定は動学的均衡よりも強い安定性を持つ。

コメント ゲーム理論のイメージを掴むのに適した入門書。ゲーム理論には様々な経済学的な含意があり、本書でも、複占市場において、A.2企業の生産量を決める非協力ゲームのナッシュ均衡となるクールノー均衡、B.先導者、追随者がいる場合、先導者の決めた生産量に応じて追随者が利益最大化となる生産量を決めることになるため、先導者の利得が(A.の場合と比較して)高まるシュタッケルベルク均衡の考え方、C.逆選択が生じる市場のモデル等が取り上げられる。
 また、本書とは若干逸れるが、囚人のジレンマゲームの状況を解決するためのコミットメントに関する論*1や、複数均衡の考え方*2ゲーム理論からの含意がその基となっている。
 なお、ゲーム理論に対する批判に対しては、80年代以降の動きとして、情報不完備性の導入、限定合理性の導入という2つの大きな動きがあったとされている。このように、ゲーム理論は、必ずしも硬直化した理論ではない。

*1:従業員の能力発揮等経済の投入要素にスラックがあり、勤続が従業員の能力と生産性の向上に寄与すると考えれば、この含意は、従業員に対し企業が雇用保護のコミットメントを行うことの重要性を指摘する。

*2:巷で話題の奴ですw また、労働市場の部分均衡だけでマクロ経済を語る「遅れてきた(95年代半ば頃の)市場主義者」たる八代尚宏氏の理論も、その基礎にはこうした理論的含意があるのかも知れないww