備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

片岡剛士「我が国の構造的・摩擦的失業の水準はどの程度なのか?」(税経通信 2007.04)

 既に、予告されていたものですが、ようやく入手。この論文では、UV分析に基づく均衡失業率について、白書等でこれまで推計されてきた手法とは異なる手法での推計が行われている。
 まず、白書等の推計の主な問題点について、?推計された均衡失業率が経済状況の影響を受けており、また90年代後半以降各種ミスマッチ緩和策がとられたものの、均衡失業率は逆に上昇しており矛盾していること、?構造要因が明示されていないため、推計誤差を含めて過大推計となり得ること、?UV曲線の円運動のため、均衡失業率が景気後退の初期に過大評価されること、の3点が上げられる。
 論文の推計(推計3)では、構造要因、賃金要因(製造業賃金指数*1)、失業率の粘着性要因(1期前失業率)を含めた推計を行っているが、構造要因を特定することに困難がともなうことから、チャウ・テストにより構造変化の期間を特定し、欠員率の係数に係数ダミーを置いて構造変化にともなう欠員率の傾きの変化を再現している。また、本論文では、OLSでの回帰を行っているが(白書等はGLSを使用)、別途、系列変換の除去と不均一分散への配慮が行われている。
 推計の結果は、白書等の手法の基づく結果(直近時点までの延長推計(推計2))が2006年平均で3.68%となるのに対し、上記の推計では2.96%となる。また推計のパフォーマンスも総じてよい。
 最後の「まとめとインプリケーション」では、政策担当者が均衡失業率を4%程度と見込んでいた場合、現下の状況は金融政策を引締め方向に導くが、本論文で指摘する3%程度の水準である場合には、政策金利の引き上げは時期尚早であることを指摘する。推計値が一人歩きするのは危険であり、十分幅を持って検討する必要があろう。

*1:現金給与総額?