備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

雇用慣行に関するメモ

 上掲書の内容とも関わるが、下記の点については、(当ブログにおける論調を含め、)近年の雇用慣行をめぐる議論の中での盲点となっているように思われる。

  • 長期雇用については、雇用の安定という主に従業員側のメリットが強調されるが、企業特殊的人的資本投資を効率的に実施することが可能となることから、企業側のメリットも大きい。現実にも、企業の方に長期雇用を志向する傾向はみられ、また、このことが、日本経済の重工業化が進んで以降、日本の雇用慣行の均衡点として長期雇用が位置づけられてきた要因であるとも考えられる。一方、従業員側は、特に若年層において、長期雇用への志向性は企業ほど強いものではなく、勤続年数の短期化も生じている(02/04/07付けエントリー参照)。
  • 派遣期間の延長の議論は、契約自由の観点から、雇用流動化と同一次元で取り上げられるケースがあるが、この議論は、勤続を通じた従業員の技能の形成という視点からみると、長期雇用と同様のメリットを持ち、雇用流動化が持つ理念とは相反する。*1ただし、そのメリットが企業側のみに帰属することなく、派遣社員にも公正に配分されるためには、①効率的・競争的な商品・労働市場の存在と、②完全雇用の実現が条件となる。なお、現実には、これらの条件が安定的に満たされる環境にはない。

*1:実際には、派遣社員の技能形成は派遣元企業の責任と考えられるため、より積めた議論が必要である。