ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

桐野夏生「OUT」

OUT(アウト)

OUT(アウト)

コメント 「OUT」の世界には、やむにやまれぬ理由から深夜のパート労働を強いられる女性たちが登場する。この単調かつ長時間の労働は、キャリアとしての将来の展望を描けるような性格のものではなく、唯単に金を得るためだけに時間を犠牲にするものであり、1人の人間が一生涯の大部分を費やすにはあまりにも過酷である。ここに描かれる世界は、明らかに現代の「下層」の姿を表している。また、そこから逃れる術は見当たらず、いつまでもこの労働を続けざるを得ない様にみえる。言わば、固定化した「下層」階級の姿を描いたものと言えるだろう。ここに登場する4人の女性は、絶望によって「もう一つの世界」を求めた1人を除き、唯金を得る必要のためだけに、死体遺棄という犯罪に手を染めることになる。「下層」から逃れるために手を出したところにある「別の場所」もまた、さらに社会の深層に沈む世界である。
 では、この世界にあるような労働の格差は、本当に固定化されたもので、そこから逃れる術はないのであろうか。拡張的な経済環境と労働市場の適度な逼迫があれば、逃れることができる可能性は高まるというのがその答えであり、この小説の世界は、多分に1990年代後半当時の景気情勢に影響を受けたものであると言えるだろう。