ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

安倍源基「昭和動乱の真相」

昭和動乱の真相 (中公文庫BIBLIO)

昭和動乱の真相 (中公文庫BIBLIO)

コメント 内務官僚出身で警視庁初代特高部長を務めた著者による「昭和のテロ」から敗戦にかけての時代記録(1977年)。著者は、「昭和のテロ」の起源を1930年のロンドン条約に対する(軍部や民族主義者の)不満に求める。翌年の三月事件に関しては、宇垣一成が関与し直前になって「変心」したことが後の宇垣内閣流産という不祥事を生んだとする。総じて宇垣に対する評価は低い。満州事変に関しては、軍紀違反の責任を正さなかったことが後に軍の統制を乱す原因となったことを指摘するものの、満州における権益を「血で購った条約上の特権」とし中国の不安定な政情や排日運動等を原因に「起こるべくして起こったこと」とみている。国民政府や中国共産党の戦略に対する見方は総じて厳しい。農村の経済的な疲弊やこれに対する軍人の同情に関する記述は多い。*1特高は秘密警察のような組織ではなくその統制は健全であったとし、むしろ暴力革命方針をとる共産主義者に対する批判が強い。言論に対する規制も強いものであったとはみていない。
 2.26事件を起こした青年将校に対しても、総じてその心情に同意的であり、政党や財界等に批判的な傾向がみられる。盧溝橋事件については中国共産党の謀略とみており、それ以降太平洋戦争へと至る流れは急速かつまるで誰かの意図によるような自然な流れであり、本書ではそれが生き生きと描かれている。敗戦後に自刃した軍人等に対し敬意を示し、最後に、戦後日本は経済面ではめざましく発展したものの、精神面では混迷を続けているとし、その表れを(1)民族的自覚と愛国心の衰退、(2)道義の退廃、にあるとする。そう言えば、近年の政策を戦後民主主義の流れと絡めて批判する「大物」がいたが、本書にある様な戦前の空気と著者の見方は、そうした戦後民主主義批判と相通じるものがある。(自分としては、無論現代の方に時代の「健全さ」を感じるものであるが。)

*1:ただし、この「農村の経済的疲弊」という見方については、その事実関係について検証する必要があるように思われる。農村には互酬的な交換の仕組みがあり、マクロ経済的にも高橋財政によって日本は昭和恐慌を克服している。