ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

賃金は何故上昇しないのか?

 09/23/07付け日本経済新聞「エコノ探偵団」でも特集されていましたが、景気回復が進み完全失業率が大きく低下する中で賃金の上昇がみられないといことは、色々な場面で取り上げられているようです。以下の論点は、某所の偉い人への説明の際に聞かれる可能性があるので、自分が急遽まとめたもの、今現在のこの問題に対する自分自身の認識です。

1.完全失業率は低下しているものの、消費者物価上昇率の上昇が加速する状況にはない。このことは、自然失業率は現下の完全失業率の水準よりも低いことを示しており、労働市場の需給状況は必ずしも逼迫していない。。*1

2.1990年代の長期不況は非正規雇用の増加を加速したが、(1.の要因とも相俟って)それが反転する兆しは見られない。また、中小企業の付加価値生産性の上昇は相対的に低く*2、マクロ的な付加価値生産性の高まりが(労働者の構成上多くを占める)中小企業従業員の賃金上昇に繋がり難い。

3.企業経営や企業の人事システムが変化し、付加価値生産性の高まりが労働者へと流れる仕組みが弱まり、付加価値生産性の高まりは利益向上へと向かう傾向が強まる。またその背景には、労働組合組織率の低下、非正規雇用の増加等とともに、外国人株主の増加の影響も働いている。

 これらの理由は個別に働くものではなく、相互に関係を持ちます。なお、上記「エコノ探偵団」の記事では、最後に中小企業の賃金低下の理由を通じてデフレの問題を取り上げる構成となっており、中島厚志氏(みずほ総研)の意見が最も的を射たものとなっています。

(追記)

 所定内給与は、企業の人件費抑制スタンスが根強い中で、賃金水準の高い団塊世代の退職や賃金水準の低い新規採用の増加なども影響し、やや弱めの動きとなっている。

 日銀が、賃金低下の理由として人口動態的な構造要因を殊更に強調し、マクロの需給を強気にみることの背景には、政策金利の引き上げに向けた布石があるものと想像します。

*1:この点に関連して、「デフレはどこまで続くのか?(その2)」(日々一考(ver2.0))が参考になる。推計による「最適雇用量」との関係から雇用の過不足をみると、02年以降雇用は不足しているが、労働市場の需給が賃上げに繋がるのは完全失業率が自然失業率(概ね「構造的・摩擦的失業率」と同一概念)に達した後のことであることが解説されている。なお、日銀短観による雇用人員判断では、05年から雇用不足感がみられる。(09/28/07付け追記)

*2:労働生産性の企業規模間格差の背景については、07/07/26付けエントリーを参照。