ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

ジョン・G・ロバーツ、グレン・デイビス「軍隊なき占領 戦後日本を操った謎の男」

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

本書の内容とその深み

 戦後裏面史シリーズであるが、これまたド級の面白さ。GHQの政策転換、いわゆる「逆コース」の背後で動いたジャパン・ロビー(米国対日協議会、ACJ)と、その中心人物であり、1978年のダグラス・グラマン事件でその正体を暴かれることになる元ニューズ・ウィーク記者ハリー・カーンについての研究。ジャパン・ロビーは、組織を変えつつもその活動は延々と続き、CIA、あるいはロックフェラーとの関係が深い外交問題評議会(CFR)、日本国際交流センターなどとの深い人的つながりがあることが示唆される。また、岸政権については、米国経済界のエスタブリッシュメントによって作られた傀儡政権であるとの描かれ方である。近年よく指摘される岸信介児玉誉士夫とCIAとの関係も、本書は既に取り上げている。
 著者であるロバーツの戦後日本の軌跡についての見方は、次の一文に簡潔に表現されている。

 なぜ、アメリカ政府はこのような「逆コース」を採ったのであろうか。開放されたばかりのアジア諸国を分裂させ、「極東における平和と安定」という大義名分のもとに戦争に向かわせることになった一連の決定を−−味方にも敵にも一様に疑惑を生んだ方針転換を−−なぜ下したのか。敗北した日本をよみがえらせる決定を下したのは、だれだったのか。つい最近、世界に経済的、軍事的大恐慌をもたらしたこの国を蘇生させ、その結果、今日「ジャパン・インク」(日本株式会社)として知られる怪物を作り出したのは、だれだったのか。
 通例、この180度の方針転換は、「冷戦」の結果によるものと説明されてきた。だが、それは巧みな言い逃れであって、アメリカが西ドイツと日本を、ほとんど戦前と同じ指導者の下で、独占的旧経済体制に復させたことは、冷戦の結果ではなく、原因であったという可能性を排除するものである。日独両国の復興が、共産主義に対し根強い恨みを持つアメリカの資本主義戦略の核心部分であったことは疑うべくもない。

 一方、本書の解説を書いたカレル・ウォルフレンは、次のようにいう。

 彼はときどき、本当に進行中の陰謀があるかのように考えすぎる、と私は思った。連鎖的にみえるひと続きの出来事は、それほど策略性を疑わなくとも説明できるはずだ、と私は感じていた。それと関連して、どうも彼は、日本の企業の中にあって、個人が決定的な影響力を持っていると思いすぎているような気がした。かつて企業家精神に富んでいた企業の極端な官僚化がもたらす影響に、もっと注意を払ってもいいのではないか、と私は思ったのだ。

 これだけをみれば、本書はまるでその手のトンデモ本であるかのようだが、本文のディテイル*1や最後の資料編にある情報の豊富さをみると、そう簡単に切って捨てるわけにはいかない深さがある。

ドッジ・ラインについて

 ドッジ・ラインとは、1949年に日本経済の自立と安定とのために実施された財政金融引き締め政策であり、具体的には、(1)緊縮財政や復興金融公庫融資の廃止による超均衡予算、(2)日銀借入金返済などの債務償還の優先、(3)複数為替レートの改正による、1ドル=360円の単一為替レートの設定、(4)戦時統制の緩和、自由競争の促進、からなる(以上、Wikipediaより引用)。この直後、日本経済はデフレと不況に襲われるが、朝鮮特需によって好況に転じ、その後の高度経済成長期を迎えることとなる。
 ドッジ・ラインが敷かれた背景のひとつとして、米国から日本への投資を容易にするため、円を対ドルで安定させることが意図されていたと考えることができる。また、本書の読後感からすれば、このことがドッジ・ラインが敷かれた最大の理由であったということになろうか。

関連エントリー

*1:例えば、経済発展段階説を唱えたことで有名な経済学者W・ロストウは、CIAの前身である戦略事務局(OSS)の職員であったことが記述されている。