備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

河野稠果「人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか」(1)

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

序章 人口問題−急増から急減へ

  • 欧州では19世紀後半から出生率低下・人口減少が問題となる。1870〜71年の普仏戦争でのフランスの敗北について、青壮年人口が少ないことをフランスの有識者がその理由としてあげる。第2次世界大戦は、またしても、人口学的観点から政治的・軍事的衰退を説明する機会を与え、以後、フランスは今日まで一貫して国を挙げての手厚い育児支援・家族政策を行う。
  • 人口学の起源と体系(略)。

第1章 人口学の基礎

  • 人口の年齢構造の変化は、出生率の変化の影響が大きく、死亡率の変化によるところは小さい。年少人口の死亡率が低下すると、人口ピラミッドの底辺が膨れ上がり、人口はむしろ若齢化する。
  • 「粗死亡率」(ある年の死亡数/対応する人口数)による国際比較は、各国の人口構成の違いがあるため困難。シンプソンのパラドックス(略)。

第2章 生命表とその応用

  • 生命表の諸概念。生命表による年齢別死亡確率は、20歳前後のところが高まる。これは、以前は、主に結核による死亡によるものであったため「結核瘤」とよばれる。現在は、その理由が、交通事故による死亡などに取って代わられている。
  • 医療・公衆衛生の飛躍的発達により、乳幼児死亡率は激減。ただし、先天奇形・変形、染色体異常、出産前後の特異な呼吸障害、心血管障害などによる死亡は依然起きており、これらの死亡率は著しくは改善されていない。乳児死亡は、現在は、先天的・遺伝的な要因による死亡に集中。
  • 1人あたり国民所得と平均寿命の関係(略)。プレストンによれば、平均所得そのものが平均寿命に及ぼす影響は25%程度であり、あとは、近代的医療制度の導入、教育水準の向上、衛生知識の普及といった所得以外の要因による。プレストンは、教育と衛生思想の伝播が死亡率の低下と密接に関係していることを強調。

第3章 少子化をめぐる人口学

  • コーホート合計特殊出生率は、(期間)合計特殊出生率に含まれる結婚・出産のタイミング効果を除去する。簡便的にその効果を除去したものが、調整合計特殊出生率。日本の調整合計特殊出生率合計特殊出生率の差をみると、1990年台後半にかけて縮小しており、晩婚化によるタイミング効果は小さくなってきている。
  • 年齢別出生率・死亡率を固定すると、時間の経過とともに人口は一定の増加率と一定の年齢構造比率をもつ「安定人口」に達する。安定人口モデルの持つ含意(略)。

第4章 人口転換−「多産多死」から「少産少死」へ

  • 人口転換とは、18世紀の産業革命を契機として、近代的経済発展、都市化、工業化を経験した国において、死亡率と出生率がそれぞれ異なるタイミングで低下することで、多産多死から少産少死へと至る過程。
  • デービスは、産業革命、経済発展、生活水準の向上と平行して起きた死亡率低下を、出生率低下の牽引車と考えた。ノートスタインは、産業革命とともに起きた近代化、工業化、都市化、家族機能の縮小、あるいは世俗化といった変化が、出生率低下をもたらしたとする。1人あたり実質国民所得合計特殊出生率の相関(略)。
  • 出生率が人口置換え水準を突き抜けて低下し、半永久的に停滞し続ける状況が「第2の人口転換」。ヴァン・デ・カーとレスタギによる理論化。第1の人口転換では、家族、配偶者、子孫に対する利他的な関心が支配的であったが、第2の人口転換では、性的行動、異性との同居、結婚・離婚、出産に関する行動が伝統的な規範・道徳に拘束されなくなり、個人の権利の獲得と自己実現が最も重要な価値観として強調される。