備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

フリードリヒ・A・ハイエク「自由の条件[3] 福祉国家における自由」(2)

自由の条件3 ハイエク全集 1-7 新版

自由の条件3 ハイエク全集 1-7 新版

第21章 貨幣制度

  • 貨幣量の変化にともなう効果は、その一つ一つが次々と需要の変化を引き起こすが、その根底にある実物的要素の変化に合致するものではなく、したがってそれは、需要と供給の均衡を崩すような物価と生産の変化を引き起こすであろう。流動性の変化に応じて、貨幣量は変化すべき。財政政策から独立した貨幣政策は、政府経費が総支出の小さい部分を占め、政府債務が全信用手段の小さな部分を占めている限りは可能。
  • インフレがデフレよりも実際に有害であるかは疑わしい。デフレの苦痛は即時的である一方で、インフレは即時的には快く一時的な困難をやわらげるが、あとになってはるかに多くの害を含んでいることに用心が必要。インフレの効果は、それが予想されなかった間だけであり、予想されるようになると、それが高い率を続ける限りで、同程度の繁栄が可能。インフレの偏重は短期的見方の普及によるもの。*1ある機械的な規制によって、短期的決定における当局の手を拘束することが望ましい。

第22章 住宅と都市計画

第23章 農業と天然資源

  • (農業と他の産業との生産性格差の広がりにより、)農業の人口が相対的に多すぎると、彼らの受ける便益には不利。農業従事者が他の職業への転換を嫌がれば嫌がるほど、過渡期における所得格差は大きくなる。農業従事者への「適当な所得」の保障は、調整を引き延ばす。
  • 英国において、大衆が農業の運命に対して示した異常なほどの憂慮は、経済的考慮よりもむしろ審美的考慮によるもの。
  • 進歩した技術的知識を資本の極端に乏しい経済に応用することによって生み出されるかも知れない発展は予測できないが、その速度は、自由な発展の機会が提供される場合の方が、将来の新しい経済においてありそうな比率とは全く相異なる資本と労働の比率を持つある社会から借りてきた型に当て嵌める場合よりも、速くなる傾向がある。
  • もし60年あるいは80年前、石炭の供給の枯渇が迫っているという保存論者の警告に心を止めていたならば、産業の発展は大幅に遅れていた。中央の指令による天然資源の保存の必要性を人々に説得してきたことの論拠は、共同社会の方が、個人よりも大きな先見の明を持っているということにあるが、その主張を支持する人々の恣意的判断以外、それを支えるものはない。自然保護はいずれも投資を構成し、全ての他の投資と全く同じ基準で判断されなければならない。

第24章 教育と研究

  • 現代社会において、最低限の義務教育制度を主張する理由は、(1)ともに暮らす人々がある基礎的知識と信念を共有すれば、全員が危険にさらされることが少なく、利益を受けることが多い、(2)民主主義では、一部に読み書きができない国民がいては、極小の地方的規模のものを除き、よく作用しない、ということ。
  • 集中化した、政府支配の教育制度には、躊躇せざるを得ない。教育の分野における自由にとっての最大の危険は、心理学的技術の発展。今日、政府による学校管理への反対論は強く、過去にこれに賛成してきた理由の大多数は消滅。M・フリードマンの教育クーポン制度など。
  • 正義のため、全ての者がその出発点において同じ機会を与えられるべきだと望む人達の動機がどんなものであれ、文字通りそれを実現することは不可能。
  • 学問の自由とは、できるだけ多数の独立した研究機関が存在し、少なくともその機関において知識を前進させる能力を証明し、自分の研究への献身を明らかにした人達は、自分の精力を費やすことになっている問題を自分で決定することができ、彼らの到達した結論を説明することができること。その結論が、使用者や社会一般にとって快いものかどうかに拘わらず。知識が最も速く進むのは、科学的探究が一部の統一的な社会的効用概念によって決定されず、それぞれの実力を認められた人達が、最前の機会と思う研究に身を捧げることができる場合。

追記 なぜわたくしは保守主義者ではないのか

  • 保守主義は、その本質から、我々の向かっている方向に変わる別の道を与えることができない。保守主義者には、自生的秩序*2に対する信頼が欠ける。自由主義者にとって、ある個人的な目的が重要と思っても、他の人々にそれに従うよう強いることを十分に正当化することにはならない。自由主義者は、優れた人が誰かを決定する権威を誰かが持っていることを否定する。
  • 保守主義の持つ国家主義への偏向は、しばしば保守主義を集産主義へ橋渡しする。また、保守主義の反国際主義は、帝国主義と結びつく。自分自身のやり方を優れていると思えば思うほど、人は他人を「教化」することを自分の使命と考える傾向がある。

*1:「長期的には、我々はみな死ぬのである」。

*2:誤植修正。ご指摘ありがとうございます→id:sarutoru様。