ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

サービス産業の生産性が低いことに関する一つの仮説

 中尾武彦「アメリカの経済政策 強さは持続できるのか」に関するエントリーで、下のように記載した。

「労働の移動や産業・企業組織の変革の柔軟性を高め、生産性の上昇を図っていく」ことの重要性を指摘しつつ、日本のサービス業のきめ細かさを評価しているが、こうしたサービス業の過剰な対応がこの業種の生産性の低さの背景にある可能性はないのか。(生産性分析では、一般に、サービスの「質」は考慮されていない。)

 この点に関して捕捉すると、現在の小売業や飲食店での深夜に及ぶ営業は、そのサービスの「質」を考慮しなければ、付加価値のあがりに比して過剰に大きな労働投入となり、労働生産性を低下させる要因となる。しかも、そうした営業を可能にしたのは、今はまだ曲がりなりにも労働力人口は増加していることに加え、デフレが継続しており、労働市場の緩和的状況が継続しているためである。今後は、人口の増加に抑制がかかり、最適金融政策の下で景気回復が一定の持続性を保つことを前提とすれば、このような(十分な付加価値をあげられないという意味での)低収益事業は市場競争によって淘汰されることになるだろう。逆説的ではあるが、BEIがマイナスになるなど再びデフレ懸念が強まっていることは、低収益事業を継続するこうしたサービス産業には「追い風」となる可能性もあるのだ。

(追記)
 ちなみに、O・ブランシャールは、小売業に関する近年の米国と欧州の生産性の伸びの格差に関して、米国では、非効率な店舗をより効率的な店舗に置き換えることで生産性を高めているのに対し、欧州では、ゾーニング等の規制の存在によって店舗の置き換えが進まない点を重視し、その一方で、米国におけるITの効果的な使い方を重視する見方については懐疑的であるとしている。日本においても、1980年代から1990年代前半にかけて開業率は低下傾向にあり、その後は横ばいで推移している。