ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

シンシア・シャピロ「外資系キャリアの出世術 会社があなたに教えない50の秘密」

外資系キャリアの出世術

外資系キャリアの出世術

組織人としての作法

 原題は"Corporate Confidential"。米国企業の元人事担当役員の著者によるものだが、ネット各所での感想にあるように、内容の本質的な部分は日本企業にも通底する。例えば、『単に個人的な利益や快適さを得ようとするのではなく、会社やその利益を「所有している」のだという高いレベルの意識を、あなたは持つ必要がある』『価値観が一致していると判断された人は、技術や業績の程度にかかわらず、出世するのである』といった言葉から受ける印象は、この国の企業そのものではないだろうか(たぶん)。同書で論じられているのは、一般的な意味での組織人のあるべき姿そのものである。その意味では、これから企業等に入ろうとする人は、(その内容に同意するしないはさておき)読んでおいて損はない。*1
 ただし、むろん日本企業の場合とは異なるであろう点もある。特に、人事担当部門に関する記述には、違いが感じられる。ここに描かれる米国企業の人事部は、日本の場合と比較すると、訴訟リスクへの対応に過敏すぎるようにみえる。また、日本では、従業員はそう簡単に職を失うことはない。日本企業の人事部は、長期雇用を前提とし、従業員のパフォーマンスをいかに引き出すかに心を砕いているように思える(あくまで一般論であるが)。これらは、法令の違いよりもむしろ慣行の違いに基づいている。実際、同じ日本企業の中でも、非正社員に対する扱いは異なっており、米国企業での従業員の扱いに近いような気もする。
 また、日本では、長期雇用慣行によって雇用の安定が図られている反面、同等の職位への転職は容易ではなく、転職市場は「レモン市場」である可能性が高い。*2しかし例えば、転職希望者が企業の採用担当者に対し何らかのシグナリング行動(上記のリンク先を参照)をとることが可能となると、転職市場を機能させることができるかも知れない。転職市場における価格メカニズムが機能するようになると、ひいては、企業のパフォーマンス評価を効率化することにもつながるだろう。

関連エントリー

*1:第4章の視覚タイプ/聴覚タイプの区分など、つい肯いてしまうところも多い。

*2:日本では、転職にともない賃金が低下する傾向が強いが、その背景として、職務記述書をつくる慣行がないことなど、情報の非対称性がより顕著である可能性があげられる。その結果、優秀な労働者ほど同一企業に留まる傾向を持つようになる。転職にともなう賃金低下を説明する要因としては、(1)情報の非対称性のほか、(2)日本企業では企業に特殊な技能が求められ、それらは他の企業では通用しにくいこと、(3)賃金がそもそもパフォーマンスに比して高くなっていること、などがあげられる。