ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

「医師不足」と「理系離れ」の間に感じる違和感


 昨今、目につく報道に「医師不足」の問題があり、医師の勤務環境の過酷さ、特に、産婦人科、小児科での医師の不足、病院における患者の受入れ拒否等さまざまなかたちで取り上げられている。その原因としていわれているのが、大学医局の求心力の低下、新人医師に対する臨床研修制度、医療費の削減、他に、産婦人科医では訴訟リスクの高まりなどである。それらに加え、医師の絶対数に関する指摘もあり、1997年の医学部定員の削減に関する閣議決定をその原因だとしている。
 これらは、ある程度事実なのだと思うが、この問題を考えるのはここでの主旨ではない。医師不足やその過酷な勤務環境に関する多くの報道がある一方で、昨今の医学部人気は凄まじく、「理系離れ」といわれる中で、医学部だけは異彩を放っているのである。しかし、それはさもありなん。下は、40歳代前半の所定内給与(残業代、ボーナス等を含まない月例の基本給)について、調査対象職種のうち上位10職種をみたものである。*1

 さらに、下は、同じく下位10職種である。

 上位10職種は、航空機操縦士や保険外交員などを除けば、30代を過ぎても、年齢に応じて給与が高まるところに特徴があり、下位10職種では、その傾向が小さい。近年、その不足が指摘されている製造現場の技術職は、下位10職種の一歩上のところに顔を出す。

 つまり、大学の理系離れや工業高校進学者の減少をいくら唱えても、現実がこれでは、誰が関心を示すであろう。そうした社会問題があることは指摘しつつも、自分の子供だけは医師にしたいと考えるのが、さもしい人間の心情である。医師については、恐らく、制度的な問題を抱えていると同時に、その絶対数が不足している可能性が高い。現状は、大学医学部の定員数を拡大し、医師に一定の競争原理を働かせることがマイナスに働くような環境にはないだろう。
 それに加えて、所得税に関する累進課税の強化が考えられる。これについては、03/31/08付けエントリーを参照されたい。理系離れや技術者の不足が、資源配分の歪みの結果であるとすれば、累進課税の強化によって社会の効率を改善することができる。*2
 制度のゆがみは、人々の感情や善意にうったえて何とかなるものではなく、制度を是正することでしか解決し得ないのである。

*1:この職種別統計は、サンプル数が少なく誤差が大きい可能性に注意。例えば、30〜34歳では、大学助教授の給与が大学教授の給与を超えている。

*2:無論、この見方に根拠があるものではなく、これに対する反論として、理系離れや技術者の不足は、国際分業にともなう産業構造調整の結果だという見方もできる。