ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

J・M・ケインズ「雇用、利子および貨幣の一般理論 下」(1)

雇用、利子および貨幣の一般理論〈下〉 (岩波文庫)

雇用、利子および貨幣の一般理論〈下〉 (岩波文庫)

第19章 貨幣賃金の変化

  • (世の通説では)貨幣賃金の切り下げは、ある程度の影響を総需要に及ぼすが、貨幣賃金が切り下げられなかった他の労働者では、物価の下落によって需要は促進される。貨幣賃金の変化に対する労働需要の弾力性が1を下回ることがなければ、雇用量が増える結果、労働者全体の総需要は高まる可能性が高い、とする。この基本原理は、個々の産業の需要表は、他の産業の需要表と供給表の性質そして総有効需要額がいずれも所与だとの仮定があって、始めて構築することが可能。このような(古典派の)流儀で、貨幣賃金の切り下げが雇用に与える影響についての回答を与えることは到底不可能。
  • 貨幣量を変えずに賃金を切り下げれば、賃金水準をそのままにして貨幣量を増やすのと同じ効果を、利子率に及ぼすことができる。貨幣量増加の長期利子率に与える影響は不十分であり、それと同様に、貨幣賃金を少々切り下げたくらいでは効果が乏しい。伸縮的賃金政策によって完全雇用状態を維持できるとする信念に根拠はなく、経済体系をこの線に沿って自己調整的とみなすことはできない。伸縮的賃金政策の主たる帰結は、物価の激しい不安定化であり、一般貨幣賃金水準の安定性を維持することが、閉鎖体系においては最も推奨される。長期的には、技術・装備の進歩とともに物価は緩やかに低下するに任せ賃金を安定的に保つ政策と、賃金はゆっくり上昇させて物価を安定に保つ政策との間に選択の余地。

付論 ピグー教授の『失業の理論』

第20章 雇用関数

  • インフレとデフレは非対称的。完全雇用に必要とされる水準以下への有効需要の収縮は、物価とともに雇用を低下させるのに対し、この水準を超える有効需要の拡大は、物価に影響を及ぼすだけ。

第21章 物価の理論

  • 経済学を価値・分配の理論と、貨幣の理論の間に分割するのは誤りであり、個々の産業・企業、所定量の資源・報酬とその異なる用途間への配分に関する理論と、全体としての産出量・雇用の理論との2分法が正しい。あるいは、定常均衡の理論と、移動均衡の理論の間に引くこともできる。貨幣の重要な属性は、それが現在と将来をつなぐ精妙な手段であることにあり、貨幣の言葉に翻訳しなければ、変化する期待が現在の活動に及ぼす影響を議論することができない。
  • 失業のある間供給は完全に弾力的で、完全雇用に達した途端完全に非弾力的になるとすれば、貨幣数量説は「失業のある限り雇用は貨幣量と同じ割合で変化するが、完全雇用に到達すると、今度は物価が貨幣量と同じ割合で変化する」と、明確な形で表現される。仮定を複雑にした場合の検討(略、ある商品生産に一時的な「隘路」が出現する場合、半臨界的な点の早い段階での出現等)。
  • 国民所得流動性選好を満たすに必要な貨幣量との間には、平均してみれば、何らかの大まかな関係がある。深刻な貨幣不足が長期間続いている場合、賃金単位を無理矢理引き下げ債務負担を増大させるのではなく、貨幣を増やすために貨幣本位を変えるなり通貨制度を変えるなりするのが、貨幣不足を回避するための本来の策。今日の資本の限界効率表は19世紀よりはずっと低く、平均的な雇用を妥当な水準に保つための利子率は、富の保有者に到底受け入れられるものではなく、そのため貨幣量を操作したくらいでは雇用を維持するための利子率を打ち立てることができない。

第22章 景気循環に関する覚書

  • 恐慌を説明する典型的な要因、多くの場合他を圧する要因は、利子率の上昇ではなく、資本の限界効率の突然の崩壊。資本の限界効率の崩壊はあまりにも徹底的で、利子率の多少の引き下げは焼け石に水。その市場評価は大きな変動を被り、株式市場の動きは、消費性向を、まさにそれが必要とされるときに抑圧する。自由放任状態の下では、雇用の大きな変動を回避するには、現在の投資量を指揮する責務を民間の手に心おきなく委ねることはできない。
  • 過剰投資論、過少消費論等(略)。

第23章 重商主義、高利禁止法、スタンプ付き貨幣および過少消費理論に関する覚書

  • 重商主義の科学的真理らしきもの─自由放任の状態で新投資が不十分な場合、当局が貿易収支の黒字に意を用いることは、国内投資と対外投資に役立つ唯一の策。ただし、国内利子率が低下しすぎると、投資量が過度に刺激され、貿易収支に不利に作用し始める。
  • 貨幣契約と貨幣慣行が相当の期間にわたって固定され、国内の貨幣流通量と利子率が主として国際収支によって決定されるような経済では、隣国を犠牲にして貿易収支と貨幣金属の分捕り合戦をする以外、当局は国内の失業と戦う正統的手段を持たない。一国の利益と他国の利益を相反させるのに、歴史上、金本位制ほど有効な手段は存在しない。必要なのは、国際的顧慮に煩わされることのない自主的利子率の政策、そして最適な国内雇用水準に向けた国家的投資計画の政策。
  • スミスは、個人の貯蓄は投資か債権のいずれかに吸収され、前者にのみはけ口を見出すことの保証がないことを熟知していたため、高利禁止法に極めて穏健な態度をとる。それを批判したベンサムは、大繁栄の時代にあって投資誘因がふんだんに存在していたためその不足の理論的可能性を見失った可能性。
  • ゲゼル*1、マンデヴィル、マルサス、A・ボブソン(略)。

第24章 一般理論の誘う社会哲学─結語的覚書

  • 我々の経済社会の際だった欠陥は、(1)完全雇用を与えることができないことと、(2)富と所得の分配が恣意的で不公平なこと。これまで論じてきた理論は、(1)とともに(2)とも関係している。完全雇用が達成されるまでは、資本成長は低い消費性向によって阻害され、低い消費成長が資本成長に寄与するのは完全雇用の場合のみ。また、資本の希少性には理由がない。資本主義の金利生活者的側面は、その仕事を終えたら消え去る運命にある資本主義の過渡的段階。
  • 国家が引き受けるべき重要な役目は、生産手段の所有ではなく、生産手段の拡大に振り向ける資源の総量を決め、生産手段の所有者に対する基本的な報酬率を決めること。中央統制が功を奏し、可能な範囲でほぼ完全雇用に近い総産出量を確立できたら、それ以降、古典派理論は再び面目を取り戻す。
  • 国々の利害に調和を与える体制(略)。

*1:省略するが、ここに紹介されているゲゼルの理論(pp.148-151)は、とても興味深い。