飯田泰之「歴史が教えるマネーの理論」
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/07/27
- メディア: 単行本
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歴史をプラクティカルな経済学で「読む」
激しく今更ですが。
本書では、歴史を題材として、貨幣と物価、為替、金融政策に関する標準的・実践的な経済学をベースに解説する。論理的にかつスッキリと整理されているので、読みやすい。歴史も、こうした見方ができるようになると、興味をかき立てる素材になる。
ポイントをいくつか列挙すると、
- 産業革命以前の経済は、経済成長のスピードは緩慢であったことから、素朴な貨幣数量説にも妥当性があった。ビクトリア均衡(19世紀末)は、経済成長率に対して相対的にマネーの拡大が小さかったために生じた。*1
- ハイパー・インフレーションは、「マネーと経済成長率からインフレを説明できる」という新古典派的貨幣数量説では説明できない。拘束力のある、または信頼される政策立案によって、ハイパー・インフレーションは突然に終了する(第1次大戦後のオーストリア、日本の昭和恐慌など)。
- 工業製品の技術進歩が発生すると、市場の為替レートは円高になるが、購買力平価はそれほどの円高にはならない(非貿易財の存在)。サービス産業の効率化を進めても、工業部門の効率化がより速ければ、(為替レートを通じ)サービス業は国際的にみて非効率ということになる。
- 日露戦争の戦費調達のため、日本政府はドル建て債務を抱えていたが、円高水準での固定相場制(金本位制)復帰は、結果的に、自国通貨高のレート復帰による外債負担の軽減という方針に従ったことになる。ただしこの方法は、経常収支の赤字、国内のデフレによる景気悪化が生じることから、成功するとは限らない。
- 貨幣法定説と貨幣商品説。
- 貨幣改鋳による物価上昇の影響は、財の種類によって異なる。17世紀半ばの元文改鋳の際は、都市の経済水準は低く、米が上級財であったことから(物価上昇によって需要が増え)、米価は上昇し、武士の生活は改善した。しかし、18世紀初頭の文政改鋳では、米は中級財に近い状態であったことから、米価の上昇は相対的に遅れ、下級武士の生活はむしろ悪化した。
- 現在の貨幣は「政府の約束」を基礎に、日本銀行が発行量を決定するという「徹底的に人工的」な存在であり、「自然な」貨幣供給政策といったものは存在しようがない。金融政策の対立軸は、「自然/不自然」ではなく、「ルール/裁量」「ルール化にあたって、物価と実体経済のどちらをどれだけ重視するか」である。