ワーク・ライフ・バランスに関連して(レジュメ風)
自分の頭の整理のために作成したものの、何の役にも立たなかった資料ですw
政府が推進するワーク・ライフ・バランス*1
○「仕事と生活の調和が実現した社会の姿」
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
(1) 就労による経済的自立が可能な社会
(2) 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会(自己啓発、地域活動など)
(3) 多様な働き方・生き方が選択できる社会(公正な処遇の確保など)
○このような社会の実現のため、関係者が果たすべき役割
例えば、国民は、「自らの仕事と生活の調和の在り方を考え、家庭や地域の中で積極的な役割を果たす。また、消費者として、求めようとするサービスの背後にある働き方に配慮する」ことが求められている。
これまでの経緯
○2000年代前半までは、ワーク・ライフ・バランスとは、ファミリー・フレンドリー、両立支援制度等とほぼ同義。例えば、2002年6月の日本労働研究雑誌、特集「ワーク・ライフ・バランスを求めて」の目次をみよ。
○次世代育成支援対策推進法(2005年施行)
・301人以上の労働者を雇用する事業主に、計画期間、各種制度の導入目標などからなる「一般事業主行動計画」の策定を義務付け(301人以下の場合は努力義務)
○社会経済生産性本部「ワーク・ライフ・バランス研究会」中間報告(2006年、座長:樋口美雄)
・ワークシェアリング(「働き方」の改革)からワーク・ライフ・バランス(「暮らし方」の改革)へ
・働き方の二極化と、少子化・次世代育成支援
・「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」の提案、関係省庁の枠を超えて総合的に政策を遂行
○経済財政諮問会議・労働市場改革専門調査会 第1次報告(2007年、座長:八代尚宏)
・働き方をめぐる6つの「壁」(正規・非正規、働き方、性、官民、年齢、国境)と労働生産性の抑制。労働生産性の向上のため、生涯を通じて多様な働き方が選択可能になることを目指す
・ワークライフバランス憲章の策定と、数値目標の設定
○男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会 「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向報告(2007年、座長:佐藤博樹)
・ワーク・ライフ・バランスとは:仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自らが希望するバランスで展開できる状態
・ワーク・ライフ・バランス社会の実現度指標の開発、ワーク・ライフ・バランスに関連するイノベーションの推進など
○2002年以降の景気回復により、新規学卒者の就職/就職内定率は改善(大卒就職率は2001年91.1%→2007年96.3%)
主要国の動向*2
○イギリス*3
・2000年3月より5年間を期限とする「ワーク・ライフ・バランス・キャンペーン」(コンサルタント費用援助のための「チャレンジ基金」の設置、好事例の収集・情報提供等)
・2002年雇用法(出産休暇の拡充・父親休暇の導入、子を持つ従業員への柔軟な働き方を申請する権利の付与等)
○フランス
・家族に対する経済的支援(家族給付制度)や働く母親へのサービス提供など、家族政策を重視。政策対象となる「家族」の捉え方も柔軟。家族政策を重視する姿勢は、北欧とも共通する
○アメリカ
・国レベルの育児休暇は年間12週の無給休暇
・企業独自の「ファミリー・フレンドリー」政策が充実。1990年代以降は、「ワーク・ライフ・バランス」へと、施策の幅が広がる
分析的な含意
○少子化(合計特殊出生率の低下)は、婚姻数の減少にともなうものであり、有配偶出生率は必ずしも低下していない*4。少子化の主因を、夫の仕事が忙しく妻が子育ての負担を1人で背負わなければならないからだ、とする*5のは誤り。
○育児休業制度を利用して就業を継続した妻は増加しているが、就業継続者そのものは、1980年代後半以降、大きく変化していない(ほぼ25%前後)。*6 女性の労働力率に関するM字カーブの変動は、未婚率の上昇で、そのほとんどが説明できてしまう。 *7
○「今後子どもが欲しいと考えている女性」のうち約84%が、子供が3歳になるまでは常勤で働きたくないと考えている(長谷川三千子「少子化問題の重さを真剣に考える」 )。
○育児の負担感を「本気で」認識しているのは、常に子供に接する必要がある専業主婦の場合なのではないか。さらに敷衍すると、「ワーク」とは、報酬を得て行うもののみにとどまる概念なのか。
○景気変動に対する対応として、従来のような労働時間による調整が不可能となり、失業率の振幅が従来以上に大きくなる。
○日本の長期雇用慣行の下で、職業能力の形成が企業内の教育訓練機会に依存されている現実を考えると、ワーク・ライフ・バランスの推進が技能の形成を通じて労働生産性を向上させるとは言いがたい(特に、生産工程・労務作業者の場合)。
○正社員の場合、本人が「仕事と生活の調和がとれている」と認識している限り、「働く意欲」は、労働時間が長いほど高い傾向にある*8。
○企業の取り組みが硬直化すると、勤務時間外の労働者の生活が縛られることになる。ボランティア活動の義務化など。あるいは、社会全体でみた場合、「ペイド・ワーク」から「アンペイド・ワーク」への重心の移動に過ぎない可能性。
○残業時間の縮小により、給与は低下する。また、小売業の深夜営業がなくなるなど、消費生活面でのサービス水準が低下し、(給与の低下とあわせて)消費生活の面では、これまでのような利便性を受けることができない。
結語
○就労による経済的自立や過重労働を防止することなどにより、「仕事と生活の調和がとれている」状況を創り出すことは重要な課題*9。しかしながら、仕事と生活の調和(特に、両立支援政策)を図ることは、必ずしも少子化対策や労働生産性の向上につながるわけではない。
○少子化対策には、働く女性に限らない子育て支援策が必要であり、究極的には、子育ての負担(費用を含む)をある程度「社会化」する必要があるのではないか。*10政府の「出生率ターゲット」の成功如何は、その目標に対する国民の「信用」に依存し、そのような「信用」は、積極的な財政支援によってしか得ることはできないのではないか。
○ワーク・ライフ・バランスを推進しつつ、労働者の技能の向上を通じた生産性の向上を図るためには、企業内の教育訓練機会だけに頼るのでなく、社会的な職業能力形成機会を創り上げていくことが有効か(キャリア・コンサルティングと実践的な教育・職業訓練プログラムによる「ジョブ・カード制度」、資格取得のためのサバティカル休暇等)。
○労働時間の一律的な短縮は、経済成長率をも低下させる。労働時間については、企業が自主的に働き方を見直し、過重労働を防止するための人員の手当等の適切な管理がなされることを前提に、多様な労働時間制度の導入を図っていくことが望ましい。
○究極的には、これまでのように、「低付加価値短時間労働」だけではない、「高付加価値短時間労働」の機会を企業単位で創り上げることが必要ではないか(業績・成果主義賃金制度のさらなる促進・高度化等)。
○消費者としての側面よりも労働者としての側面の優位性が増すことから、労使関係の重要性は、これまで以上に大きなものとなる。
*1:内閣府「ワーク・ライフ・バランス憲章」 等より。
*2:厚生労働省「平成19年版労働経済白書」等 より。
*3:イギリスに関する他の資料としては、藤森克彦「ブレア政権の「福祉から就労へプログラム」について」など。
*5:例えば、厚生労働省「第1回人生85年ビジョン懇談会」における、小室淑恵(株)ワーク・ライフバランス社長の発言(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/txt/s1219-1.txt)など。
*6:http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou13/chapter4.html#41b なお、マクロの効果はないとしても、ミクロの分析から、制度導入の効果を指摘することは可能か。
*7:http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20080131/1201794834
*9:労働時間と心身の健康との関係についての研究など。
*10:一方で、「結婚支援や子育て支援が、これから結婚や子育てをしようとする人たちの、結婚や子育てに対する期待水準を不可逆的に高めてしまい、かえってそれから遠のかせるというメカニズム」が作動する可能性(赤川学)。