ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

日本におけるオークン法則

 先日とり上げたベン・バーナンキ「リフレと金融政策」の訳者あとがきでは、米国におけるオークン法則および犠牲率*1に関して、次のように定式化されています。

 実質GDP成長率=3−2×完全失業率のポイント差
 超過失業率(完全失業率のうち、インフレ非加速失業率を超過した分)=−4×インフレ率

 バーナンキは、講演の中で、インフレ率が今後増大する見込みが小さい(当時)ことを、これらの関係を用いて次のように説明します。まず、実質GDP成長率について、2003年7月から12月までは長期的な潜在成長率にあたる3%、2004年の1年間にそれを超過する4%まで上昇することを前提とすると、最初のオークン法則により、完全失業率は、2003年は現行の6.4%で推移し、その後6%程度まで低下すると予想されます。次に、インフレ非加速失業率を5%程度とすると、この間の超過失業率は1.9%程度となることから、インフレ率は、犠牲率に関する式により0.5%だけ低下することが見込まれることになります。
 では、日本のデータを当てはめてみた場合、どのようなことがわかるでしょう。ここでは、最初のオークン法則に、日本のデータを当てはめてみます。便宜的に、(1)1971年第1四半期から1989年第4四半期、(2)1990年第1四半期〜2008年第2四半期、の2期に分けて回帰分析を行います。*2結果は、以下の通りです。

(1)1971年第1四半期から1989年第4四半期

 実質GDP成長率=4.3−2.1×完全失業率のポイント差


(2)1990年第1四半期〜2008年第2四半期

 実質GDP成長率=1.7−1.5×完全失業率のポイント差

 これらの結果を比べると、完全失業率を変化させないという意味で標準的な実質GDP成長率の水準は、4%台半ばから1%台半ばまで低下していることがわかります。生産関数を用いた分析では、潜在成長率は1990年以降急速に低下しており、この結果は、それと整合的に解釈することができます。また、実質GDP成長率の完全失業率の変化に対する感応度も低下しており、実質GDP成長率の1%の変化は、(1)の期間では完全失業率の約0.5%(1/2)の変化に対応しますが、(2)の期間では約0.66%(2/3)の変化に対応します。
 さて、この結果をもとに、今後のインフレ率を予測してみましょう。日銀の「経済・物価情勢の展望」(2007年10月)によれば、実質GDPは2008年度0.1%、2009年度0.6%、2010年度1.7%で推移するとみられています。これを(2)の結果に当てはめてみると、完全失業率(現在4.0%)は、2008〜2009年度は5%〜5%台半ば程度にまで上昇し、2010年度に入ると、同水準で横ばい程度で推移することになります。
 先日行ったNAIRUの推計結果を参照するまでもなく、インフレ率が上昇することはしばらくは考えられません。コアCPI上昇率は、現時点では価格ショックの影響で高めの数値となっていますが、世界的な景気悪化の影響を受け、今後は落ち着きを取り戻すと考えられます。日銀の展望をベースに考えると、インフレ率は、2008年度以降もゼロ%近傍で推移することになるでしょう。

(余談)

 偶然、「にちぎん☆NIGHT」開催のお知らせをみつけましたので、参考までにお知らせします。白川総裁による「市民講座」もあるそうです。

*1:インフレを1%減らすために必要な失業率のポイント差。

*2:系列相関を回避するため、コクラン・オーカット法を用いました。