ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

植田和男「ゼロ金利との闘い 日銀の政策を総括する」

ゼロ金利との闘い―日銀の金融政策を総括する

ゼロ金利との闘い―日銀の金融政策を総括する

 日銀審議委員を務めた著者による1990年代後半以降の日銀の金融政策のレビュー。ゼロ金利周辺での金融政策について、著者は、Bernanke and Reinhart(2004)に準拠し、(1)将来の金融政策ないし短期金利についての予想のコントロール、(2)特定の資産の大量購入、(3)中央銀行バランスシートの拡大、という3つに分類する。日銀が行った政策のうち、2001年3月の量的緩和政策とそれにともなう時間軸の導入については、実証分析をもとに、より長めの金利を引き下げることを通じて一定の効果を持ったものであったことをみとめるが、(2)や(3)に相当する政策については、その効果に懐疑的である。P・クルーグマンらの指摘するインフレ・ターゲット政策については、「流動性の罠」にいったん陥ってしまった以上、金融政策のみではデフレを克服する道具たり得ないこと、望ましいインフレ率よりも高めの目標を掲げることでより強い効果を持つ一方、その反面、将来において約束を破る誘因が存在すること、などの弱点があることを理由として、その評価に慎重な姿勢をみせる。「失われた10年」の経済停滞の要因としては、一般物価の下落が実質金利が上昇したというような事実はみられない(pp.149-151)ことから、生産性ショックやフィナンシャル・アクセラレーターの効果をより重視している。
 非伝統的な金融政策は、中央銀行が独立して実施することはできるが、中央銀行のとることができるリスクには限界があることから、その実施にあたっては、政府との密接な関係が必要となる──この間の金融政策を総括する第9章の記述には、日銀の金融政策に積極的で果敢な姿勢が必ずしもみられなかったことへの言い訳のように聞こえるところもある。
 本書が刊行されたのは2005年の末で、当時は出口政策との関係で、著者の記述がよく引用されていた。あれからもう3年が過ぎたのですね。