ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

戦争よりもバブル──フリーターの数を減少させるもうひとつの方法

 最近読み応えのあるエントリーが増えているこちらのブログから。

本稿の最も重要な発見として、非正規雇用としての離職前2年から5年程度の同一企業における継続就業経験は、正社員への移行を有利にすることが明らかとなった。その事実は、非正規から正規への移行には、労働需給要因に加え、一定期間の継続就業の経歴が、潜在能力や定着性向に関する指標となっているというシグナリング仮説と整合的である。

 フリーターは、景気が回復し新規学卒市場が売り手市場化したことによって、若い層を中心に減少しているといわれます。その一方、上記のエントリーにもあるように、フリーターの滞留という問題(いいかえれば、ロス・ジェネ問題)があることも知られています。
 この問題に関連して、近年よく聞かれる「破壊的」あるいは「反社会的」言動(そして、そういうものが「売れる」文章であるのも事実)と比べると、玄田先生のように、現実の枠組みの中に希望を追求する姿勢には好感が持てます。
 ただし、フリーターの数を減少させるもうひとつの、そして確実な方法があることも忘れてはなりません。若年層の不安定な労働環境を分析した政府の報告に、やや古いですが、内閣府国民生活白書」と厚生労働省労働経済白書」があります。ここでは、後者を取り上げます。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/06/index.html

 この中に、コーホート(同一期間に生誕した者)別のフリーターの数を示すおもしろいグラフがあります。

 この図では、フリーターの数が5年刻みの生まれ年別にグラフ化されており、5年ごとに実施される調査の集計結果が、同一の座標軸上に重なる形で置かれています。使用されている就業構造基本調査は、5年ごとに実施される調査であり、x軸上の5年刻みの生まれ年のメモリは、調査年ごとに1メモリずつずれていきます。つまり、1992年調査の「20〜24歳」は、1997年調査では「25〜29歳」となり、2002年調査では「30〜34歳」となります。
 これをみると、各調査年とも「20〜24歳」においてフリーターの数はピークをつけており、年齢が高いほどその数は少なくなっています。一方、同一のコーホートの者に着目し、調査時点が後に来るとフリーターの数はどう変化するのか、との視点に立ってみると、その数はほとんど変わっていないことになります。つまり、「20〜24歳」時点で高まったフリーターの数は、その層の者が年齢を重ねても、ほとんど減少していません。
 これは、フリーターというものが、長期不況の中で、いわば一種の「階級」のような存在になってしまっていることを示すものといえるでしょう。
 ところが、唯一それが減少しているところがあります。それは、1987年調査と1992年調査の間であり、特に、1962〜67年生まれの層のフリーターは、約半分程度にまで減っているように見えます。*1ちなみにフィリップス・カーブをみると、この時期の完全失業率は自然失業率を超えるほどの水準にあり、ディマンド・プル型のインフレ(消費税要因除去後の消費者物価指数前年比が最高値で3.3%)が生じていることがわかります。

 この両調査の間の期間にあたるのがバブル景気です。バブル景気は、日本社会に格差を生み、また、その後の「失われた10数年」をもたらした「悪の権化」のように、いまや語られるものとなっています。しかし、フリーターを大きく減少させた、しかも、新規学卒市場の好調さによってだけではなく、いったんフリーターになった人間にもそこから離脱する契機を与えるものであった、という意味では、高い評価を与えることのできるものだといえるでしょう。少なくとも、戦争*2よりかはバブルがいい(笑)。*3

*1:このことは、「労働経済白書」の本文では、あまり強調されていません。

*2:戦争によって労働力が希少化すると、国家による労働に対する保護的な動きがでてくることについては、先日のエントリーにて取り上げたサンフォード・ジャコービィ「雇用官僚制」を参照。

*3:とはいえ、金融政策を「所与」とする限り、これからの日本にバブル景気のような「超大型」の景気回復が起こることは、極めて考えにくいわけですが・・・