ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

鍋象=Bewaad方式「真の失業率」の補正(メソドロジー)

(前回のエントリー)

 さて、本書の冒頭では、就業意欲喪失効果を考慮して本来の失業率はいかなる水準にあるかを考えたとき、公表失業率を約2%程度超過する可能性を指摘しています。

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

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この意味での「本来の失業率」としては、かつて、「真の失業率」としてid:bewaadさんが推計されていたものがあります。なお、ここではこれを「鍋象=Bewaad方式「真の失業率」」とよぶことにします。
 鍋象=Bewaad方式「真の失業率」の最大の問題点は、人口構造の高齢化が考慮されていないことです。このため、その推計値は本来の失業率よりもかなり高めのものとなります。このため、年齢階級別のデータを用いて補正をおこなったところ、足許(当時は2005年)で、公表失業率を約2%程度超過するという結果になりました。上述した本書の記述は、この推計結果を考慮した上での記述であると考えられます。
 なお、鍋象=Bewaad方式「真の失業率」の推計方法と、その補正結果については、下のエントリーをご参照ください。

 id:bewaadさんによる「真の失業率」の推計は、2008年9月結果以降更新されておりません。そこで、今後は、当ブログでそれを定期的に推計し、継続して公表していきたいと思います。
 ただし、鍋象=Bewaad方式「真の失業率」は、上述した高齢化の影響のほかにも、女性の労働力率(人口に占める労働力人口の割合)の高まりなどの影響を受けています。下図からわかるように、高齢化の影響を補正しても、1992年以前の数値が異常に高めになるなどの問題があります。

そこで、高齢化以外の構造要因も可能な限り除去するため、かなり手の込んだ改良を加えました。

「均衡」労働力人口の推計

 鍋象=Bewaad方式「真の失業率」の推計の鍵は、就業意欲喪失効果を考慮した上での本来の労働力人口をいかに正確に推計できるか、ということにあります。前回、人口構造の高齢化要因を補正した際は、年齢階級別の労働力率労働力人口÷人口)を計算し、年齢階級別に1992年時点の労働力率に固定することで、本来の労働力人口を推計しました。
 ただし、女性の労働力率がそれほど高くはなかった1980年代以前の結果についてこの方法で労働力人口を推計すると、非労働力とすべき属性の人々をも労働力人口にカウントすることになってしまいます。そこで、年齢階級別の「均衡」労働力率を可変的なものと考え、これをホドリック=プレスコット・フィルターのグロース成分として計測します。
 まず、20〜59歳の各年齢階級別の労働力率(グロース成分)の動きからみていきます。

 20〜24歳を除くと、各年齢階級ともに、1990年代に入り上昇が停滞するものの、単調に増加しています。この傾向は、おおむね、女性の高学歴化や未婚化にともなう労働力率の高まりを反映したものとみることができるでしょう。ただし、20〜24歳については、1990年代から明らかに低下しています。これは、大学院への入学者の増加などにともなう構造的な動きと考えることもできますが、むしろ、経済的な要因による就業意欲の喪失と考えるのが自然です。ホドリック=プレスコット・フィルターでは、長期不況にともなって労働力率が傾向的に低下している場合、それが本当はサイクル的な動きであるにもかかわらず、グロース成分としてしまうことになります。そこで、20〜24歳に限り、図のように補正したものを「均衡」労働力率と考えます。
 つぎに、残りの年齢階級をみることにします。

 15〜19歳では、1970年代から1980年代後半にかけて労働力率が大きく低下し、その後、1990年代後半から再び大きく低下しています。この低下は、長期不況の影響とも考えられますが、その多くは高学歴化にともなうものであると考えるのが自然でしょう。また、65歳以上では、労働力率は長期的に大きく低下していますが、この層では、高齢化の影響を除去することができないので、このような動きとなるのがむしろ自然です。これらの年齢階級については、「均衡」労働力率は長期的に低下していると考えます。
 一方、60〜64歳については、1990年代後半から低下傾向を示すものの、その後、2000年代前半から再び上昇をはじめます。この動きは、景気の動きとほぼパラレルであり、これをそのまま「均衡」労働力率としてしまうのは不自然です。よって、この年齢階級については、上図のような補正を加えます。
 こうして推計された年齢階級別の「均衡」労働力率に対して、各年齢階級別の人口を乗じることにより、「均衡」労働力人口を推計します。

就業意欲喪失効果を踏まえた「均衡」労働力人口の補正

 このようにして推計された年齢階級別の労働力人口は、「潜在的な」労働力人口(potential labor force)を示すものではありません。あくまで、過去の動きから計測された「均衡」労働力人口に過ぎません。「潜在的な」労働力人口を推計するため、まず、公表労働力人口から均衡労働力人口を引いたものを労働力人口のサイクル成分とし、その「均衡」労働力人口に対する比を「補正係数」とよぶことにします。
 補正係数は、第一次オイルショック前の1970年代前半からさかのぼって大きく上昇する傾向がみられます。ただし、第一次オイルショック以降では、1992年が0.011と最も高くなります。そこで、とりあえず1992年の補正係数(年齢階級別に0.004から0.044まで)によって「均衡」労働力人口を補正したものを「潜在的な」労働力人口と考えます。そしてこの数を、就業意欲喪失効果を考慮した本来の労働力人口として、鍋象=Bewaad方式「真の失業率」の推計に用いることにします。
 なお、補正係数は、総じていえば若年層と高年齢層で高く、これらの層が需要変動のバッファーとなることで、我が国の雇用システムの柔軟性が確保されていることがわかります。

推計結果

 こうして推計された本来の労働力人口と就業者数の実際の水準によって鍋象=Bewaad方式「真の失業率」を計算すると、下図のようになります。

 人口構造の高齢化のみを補正した場合と比較して、1980年代以前の結果に落ち着きがみられるようになります。鍋象=Bewaad方式「真の失業率」は、景気が悪化すると就業意欲喪失効果が働くことにより、公表失業率を大きく超えて上昇することになります。足許でも、鍋象=Bewaad方式「真の失業率」は、公表失業率よりも0.6%程度高くなっています。
 2008年の「均衡」労働力率をもとに、月次の鍋象=Bewaad方式「真の失業率」を計算すると、つぎのようになります。

 2009年1月の結果では、公表失業率が4.1%であるのに対し、鍋象=Bewaad方式「真の失業率」(後方12カ月移動平均)は4.7%となります。この結果をみる限り、完全失業率は、いま現在はまだ本格的な悪化過程にあるとはいえないようです。