ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

もっと需要を、そしてもっとレバレッジを


※追記を加えました(03/29/09)。また、引用した下記08/21/09付けエントリーに文章の適正化等の修正を加え、説明を追加しました(03/31/09)

http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20070821/1187709574

 昨年9月末の金融危機と、それによって深刻化する今回の不況という一連の経済事象について、経済書の世界でも事実関係の整理がなされつつあります。そうした書籍の中で、日経ビジネス人文庫の「実録 世界金融危機」をいま、読んでいるところです。

実録 世界金融危機 (日経ビジネス人文庫)

実録 世界金融危機 (日経ビジネス人文庫)

この本は、日本経済新聞の記事の加筆という形がとられていて、ドキュメント的に事実が記述されるとともに、この間の米国政府、FRBの対策が時系列的に整理されており、とても便利です。
 本書に限らず、今回の金融危機を招いた原因として、「アニマル・スピリット」を背景とした投資銀行レバレッジ経営が指摘されます。そうした「精神論」とは別に、金融の仕組みに内在する問題を考えるとき、本書の次のような記述(63頁)は参考になります。

 もう一つの誤算は、投資銀行の経営モデルに潜む構造的な問題、資金調達の不安定さだ。投資銀行レバレッジを支えたのは、短期金融市場からの借り入れだった。投資銀行は短期の資金を調達し、証券、さらには不動産など、長期的な投資に充てていた。短期金融市場は流動性が高く、逃げ足が速い。投資を売却して負債を返済しようにも簡単に売却できず、すぐに資金繰りが行き詰まる弱点を抱えていた。

資産と負債のAsset Liability Managementの考え方からすれば、短期の負債を長期の資産に対応させることは、通常のリスク管理上は考えられないことですが、金融の複雑な仕組みがそれを可能にしたのかも知れません。他にも、証券化と格付の問題や不適切なオフバランス化、自由な金融・証券市場と監督機関のミスマッチの問題などが、本書を読むうちに垣間見られるようになります。
 金融機関のリスク管理やその監督のあり方については、問題の所在はかなりはっきりしていて、これらの問題に対処することは必須であるといえるでしょう。その一方で、「レバレッジ経営」についての昨今の批判は的を射たものでしょうか。十分な分析を踏まえているとはいえませんが、わたしとしては、あえて「レバレッジ経営」について肯定する論陣を張りたい気持ちを強くしています。
 というのは、今の日本では、レバレッジの不十分さがデフレのひとつの原因であり、またそれが、所得形成の困難さや消費の停滞の一因ともなっていると考えるからです。
 日本の貯蓄過剰、特に、高齢化の進展によって家計の貯蓄が縮小する中で、企業の貯蓄過剰が目立ってきている点については、だいぶ前のエントリーで指摘しました。

当時は、あまり注目してもらえない中で上記のような指摘を行いましたが、この問題は、別の形でつい数ヶ月前に注目を浴びています。つまり、「企業の内部留保を賃上げの原資に」*1という議論ですね。この議論では、「内部留保」(=利益剰余金等)は、企業の貸借対照表上の資本の部にあたり、それは資産側の生産設備等に充てられているので、それを賃上げの原資にすることは不可能、という企業会計的にはごく当然の指摘によって下火になりましたが、とはいってもその議論には一理あるのだ、という点は指摘しておく価値があります。
 生産設備等に対応するのは、別に資本である必要はなく、銀行からの借り入れや社債等による調達であってもいいはずです。というよりも、設備投資とは、本来、そのような企業外部の資金によるのが一般的だったはずはないでしょうか。企業が資金の外部調達に頼らず、内部留保の積立に頼るようになったことが、先のエントリーに指摘した企業の貯蓄過剰の背景にあり、賃金や利子・配当を通じた家計の所得形成の不十分さにもつながっています。
 企業が積極的に企業外部の資金を調達することは、いわば、「レバレッジ経営」への傾斜を意味します。一方で、現在の日本企業にみられる「レバレッジ経営」に対する忌避感は、信用創造を不活性化させるので、デフレの原因のひとつにもなります。つまり、企業を中心とした日本の貯蓄過剰がデフレを生んでいる、というわけです。

 バブル崩壊に端を発した日本の貯蓄過剰は、そっくりそのまま、アジア通貨危機に端を発したグローバルな貯蓄過剰に重ね合わせてみることができるでしょう。そして、今回の金融危機です。グローバルな貯蓄過剰は、米国経済の過剰消費とレバレッジ経営によってマクロ経済のバランスが支えられましたが、今回の金融危機をきっかけとして、米国においても、需要の縮小と貯蓄過剰が生じる可能性が高まっています。短期的には、各国政府による積極果敢な財政政策が不可欠となっていますが、積極的な投資主体の出現が見込めない中では、世界経済のデフレ化は避け得ないようにも思えてきます。
 いったいどうしたらいいんでしょうね。

 「アニマル・スピリット」万歳!「レバレッジ経営」万歳!

(追記)

 さらにいうと、マクロ経済のインバランスが進む中で、国家に対する過剰な期待が生じる可能性があります。このような方向性は、むろん、長期的に非効率をもたらす*2ことになりますが、市場経済に対する国家の介入には、また別の「恐ろしさ」がある*3、ということも肝に銘じておくべきでしょう。
 むしろ、こういう時こそ「インセンティブ」というものをもっと真剣に考え抜く必要があるんじゃないでしょうか。だから繰り返そう、「アニマル・スピリット」万歳!「レバレッジ経営」万歳!

*1:http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/01/post-effd.html 等。

*2:国家の主導する投資計画は、失敗する可能性が高く、その失敗に対する責任の所在も曖昧となる。また、現在の政治システムの下で、国家の市場経済への介入を高めることは、非効率な投資計画をさらに促進する可能性が高い。

*3:http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20080604/1212598313 , http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20070821/1187709574 等を参照。