ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

いまあえて、完全失業率がそれほど悪化しない可能性を考えてみる

 雇用情勢については、昨年末からの実質GDPの急激な低下と、それがV字型に急回復する可能性が低いことを受け、2009年度以降、急速に悪化することが予測されています。この点については、3月末の経済財政諮問会議における岩田一政議員の「どう考えても7%程度に上がっていく」という発言が注目を集めました。*1こうしたことから、完全失業率が既往最高水準にまで悪化することを防ぐため、政府においても、新たな経済対策が策定されたようです。

http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10240020696.html

 その一方で、これまでのところ、完全失業率の悪化は限定的なものとなっています(2009年2月で4.4%、既往最高水準は2002年6月等の5.5%)。生産関数アプローチから短期的に考えれば、有効需要の低下に応じて雇用量は調整されるので、完全失業率は今後急速に悪化することになります。現在のところ、完全失業率の悪化が限定的であるのは、企業が、賃金・時間の調整を優先させることで、雇用調整を極力行わないこととしているため、というのが一般的な見方といえます。
 この点については、02/27/09付けエントリーでもふれております。

なお、聞くところによると、地方では操業短縮の動きもみられるようで、休業者や短時間労働者の増加によって雇用の減少に歯止めがかかっていることも、完全失業率の悪化を緩和する材料となっているようです。(中略)
つまり、日本の雇用システムがもつ柔軟性の効果と、ビルトイン・スタビライザーとしての政策効果が、しだいに効き始めていることになります。いずれにしても、雇用情勢が悪化傾向にあることは否定できません。

 休業者については、このところ、前年よりも20万人程度多い水準で推移しており、短時間就業者(週間就業時間30時間未満の者)を加えれば、前年よりも100万人程度多い水準での推移となります。

(注)年により、調査の対象となる月末1週間の祝日数および曜日が変動するため、前年差をみる場合には注意を要する。

雇用調整助成金を活用した企業の雇用維持努力などによって、完全失業率の急速な悪化にはつながっていないことが認められます。
 また、労働時間を加味した労働投入量は、1991年以降一貫して低下しており、1991年時点から約12.5%程度減少しています。この減少は、主として労働時間の減少(パートタイムの増加による1人あたり労働時間の減少効果を含む)によるものであり、就業者数そのものは、実は、完全失業率が既往最高値をつけた2002年と比較しても、それほど増加しているわけではありません。

(注)ピーク時を100とした指数を、ホドリック=プレスコット・フィルターにより平滑化。

 労働投入量の水準が低いことは、これ以上の一段の調整の必要性が低い可能性と同時に、これ以上の調整が必要であるとすれば、労働時間が大きく減少している中では、雇用量そのものを調整せざるを得ない可能性をも示すことにもなるでしょう。
 実質GDPにV字型の回復が見込めない以上、現在の雇用量と最適な雇用量とのギャップは縮まりませんから、雇用調整は徐々に進み、完全失業率はしだいに悪化することになります。休業者および短時間就業者は、昨年末から増加しており、約1年程度経過すれば、その分の雇用量の調整も徐々に進んでくることになります。今年の夏以降の経済情勢しだいでは、もう一段の雇用対策が必要になる可能性も考えられます。
 しかしながら、政策的な雇用維持に加えて、医療、福祉業では、雇用量そのものが増加しています。特に、最近では、解雇など非自発的な理由による離職失業者が増加する一方で、これを補う形で、医療、福祉業の就業者が増加しています。

 医療、福祉業での就業者の増加は、女性雇用者の増加の主因であり、後者については、このブログでも折りにふれて指摘してきたものです。*2企業の倒産や解雇による離職者が増加していることは否定できませんが、それを補う形で、女性を中心に雇用が創出されているということは、日本の雇用システムの柔軟性、そして雇用を基盤とした生活保障の仕組みが、今も健全に機能していることを示すものといえるでしょう。
 これまでにない大規模な需要の縮小と雇用調整圧力に対し、日本の雇用システムがそれに耐えられるのかどうかは、ここ数年のうちにはっきりとみえてくることになります。今後は、これまでにみられた交易条件の悪化による所得低下圧力が反転し、消費については、しだいに改善してくることが見込まれます。これまでにない大規模な経済対策の効果や、5月以降は定額給付金の支給も始まり、これからの経済指標は、内需、特に消費の動きが注目されるところです。消費の増加は、一般的には、雇用の改善に働くことになるので、こうした動きも、雇用調整圧力に対する反動効果を持つものです。日本の雇用システムの「実力」に期待したいところです。

*1:オークン法則によって、実質経済成長率の見通しから完全失業率を予測すると、完全失業率がその程度にまで上昇する可能性は、本ブログの推計からも否定できません。(http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20090211/1234319549

*2:今回の雇用情勢の悪化の局面では、完全失業率がしだいに高まる中でも、「真の失業率」には急速に上昇する傾向はみられません。この背景にも、医療、福祉業を中心に、女性の雇用者が増加していることがあります。(http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20090401/1238594920