ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

雇用が先か、消費が先か

 04/03/09付エントリーでは、次のように記載した。

消費の増加は、一般的には、雇用の改善に働くことになるので、こうした動きも、雇用調整圧力に対する反動効果を持つものです。

かつて経済指標を頻繁にみていたときは、消費は雇用に先行して動くという印象を持っていたため、無意識のうちに上記のような記述をしたのだが、よく考えてみると、生産の拡大が雇用の拡大につながり、その結果マクロの所得が好転して消費が拡大する、という因果関係のほうがもっともらしい気もしてくる。
 そこで、実質民間最終消費支出と就業者数の動きをグラフ化すると、下のようになる。ただし、データは四半期平均で、就業者数は季節調整値、実質民間最終消費支出は定数とタイムトレンドによる単純回帰によりトレンドを除去している。*1

これによると、1997年4月の消費税率の引き上げを前にして消費は大きく増加したが、引き上げ後は急激に減少し、引き上げ前よりもさらに低い水準で低迷を続けたことがわかる。就業者数は消費に遅れてピークをつけたのち、2002年ごろまで緩やかに削減されている。2002年以降の景気回復期は、実質民間最終消費支出と就業者数がともに緩やかに上昇しているが、2008年に入るとこれらがともに大きく減少している。

グレンジャー・コーザリティー

 「雇用が先か、消費が先か」という因果関係をより厳密にみる場合のオーソドックスな方法は、VARモデルによるグレンジャー・コーザリティーを確認することである。ここでは、実質民間最終消費支出(ここではタイムトレンドを除去する前のものを使用)と就業者数の2変数からなるVARモデルを、下のように構成した。なお、観測期間は1995年第2四半期〜2008年第4四半期とした。

\(\array{ldRC_t\\ldL_t}\)=C+\Bigsum_{i=\1}^{\4}A_i\(\array{ldRC_{t-i}\\ldL_{t-i}}\)

ただし、ldRC:実質民間最終消費支出の対数階差、ldL:就業者数の対数階差 である。このVARモデルにおいて、ldRCの過去の値がldLの現在の値に対する説明力を持つ一方で、ldLの過去の値がldRCの現在の値に対する説明力を持たないとすれば、ldRCからldLへのグレンジャーの意味での因果性があるということになる。
 このVARモデルの推計結果は、次のようになる。

結果の解釈は微妙であるが、有意水準を5%とすれば、かつてわたしが感じていた印象は正しく、消費が雇用に先行していることを示す結果となる。ただし、有意水準を10%とすれば、消費と雇用はフィード・バックの関係にあることを意味するようになる。
 グレンジャー・コーザリティーの分析では、インパルス・レスポンス*2を確認することが「おきまり」なので、これもみておきたい。
 ここでは、VARモデルの変数を対数階差とした関係から、累積インパルス・レスポンスをみることで、レベル変数に対する影響を確認することにしたい。

 民間最終消費支出(対数階差)の1標準偏差分のショックに対する累積インパルス・レスポンスをみると、就業者数は3期および5期に大きく上昇し、定常的にその水準は高まっている。このように、消費の拡大は、2〜5期にかけて、雇用の増加をもたらすことになる。
 その一方で、就業者数(対数階差)の1標準偏差分のショックに対する累積インパルス・レスポンスでは、消費は3期に大きく高まるが、4〜5期に大きく低下し、ショックが生じる前よりも低い水準で推移することになる。このあたりの動きの妥当性は、要検討か。

まとめ

 この分析の含意より、消費の拡大は、確実に雇用の拡大につながると考えてよいだろう。先日のエントリーでも指摘したが、原油や資源高による国内需要への低下圧力は既になく、今後は、政府の経済対策にともなう消費の拡大が見込まれる。むろん、円高が続くと、内需の海外への漏れ出しによって、その効果が十分に生かせないことも考えられよう。過度な円高に至らないために、金融政策がやるべきことはまだあるように思われるのだが・・・
 いずれにしても、消費が拡大する予兆は既にみられている。例えば、景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断D.I.が3カ月連続で上昇している。

 需要の縮小に対しては、オーソドックスに、需要を拡大させるための政策をまずはとるべきだ。需要の縮小局面において、雇用の構造改革を提唱することで、さらなる需要の縮小を招来させるというのでは、1990年代の教訓がなにも生かされていないことを意味するだけだろう。

*1:実質民間最終消費支出は、傾向的に、毎四半期7,234億円上昇しているので、これを除去した。この傾向的な上昇分は、生産性の向上による要素投入あたりの消費の上昇分などとみなすことができよう。

*2:VARモデルは、無限次のVMAモデルに変換できるため、ある変数の現在の値は、初期値と、過去に発生したショックの累積で表すことが可能になる。このとき、ある特定の変数に生じたショックは、モデルを通じて、他の諸変数にも影響を及ぼすことになる。0期に生じたショックが、それに続く期において諸変数に及ぼす影響を順にならべたものがインパルス・レスポンスである。