備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

「デフレ」の意味するもの、あるいは経済の実需的側面と貨幣的側面

 前回の続きです。*1ブックマークに指摘されていますが、国内需要デフレーターがマイナスになっただけではデフレと「定義付ける」ことはできないというのはそのとおりで、継続的な物価の下落(あるいは、それにともなう景気の後退)があって、はじめてデフレとよぶことが可能になるといえるでしょう。その意味では、前回の表題はやや時期尚早感があります(むろん、自分はいずれそうなるだろうことを見込んでおりますが)。また、継続的な物価の下落が将来にわたって見込まれること、いいかえれば、期待物価上昇率が低下しているかどうかが今後の金融政策運営を判断する上で重要なポイントであることも、いうまでもないことです。
 これに加え、関係者限定のmixiにおいてもさる方からご指摘を受けました。こちらはやや本質的な議論となっており、デフレを「定義付ける」上で参照にすべきなのは国内需要デフレーターではなくGDPデフレーターではないか、というものです。ご指摘を自分なりに整理すると次のようになります。*2

  • 国内需要内需)デフレーターの動きからデフレかどうかを判断することには批判的。物価の動きは、予算制約としての所得とそれに対応する財の二点から判断すべき。国民は、国内財・輸入財をあわせて消費するので、予算制約としての所得も国内財・輸入財の影響を含めて判断する。
  • この二つに齟齬がある状態で国内需要デフレーターをみると、判断を誤る可能性がある。例えば、輸入物価の上昇によりGDPデフレーターが低下している状況で、国内需要財をバスケットとする国内需要デフレーターがプラスになったからといって、デフレから脱却したとは言い切れないのではないか。

 ご指摘は一面として正しい一方、その反面、現実にデフレを判断する際に国内需要デフレーターを用いるケースがあるのも事実です。国内需要デフレーターは、完全失業率(ないしはGDPギャップ)との連動性がGDPデフレーターよりも強いと考えられます。例えば、2000年以降の日本のデータをみればわかるように、完全失業率(GDPギャップ)の改善に応じ国内需要デフレーターの減少幅は縮小し、2006年にはほぼプラス圏内に入りますが、GDPデフレーターは減少が続きました。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2009/0223/914.html

これはむろん、原油・原材料価格を反映した輸入デフレーターの上昇によるものです。輸入デフレーターの上昇は家計の予算制約をタイト化し国内需要を圧迫しますが、にもかかわらず、完全失業率国内需要デフレーターは上述のような動きとなっています。
 なお、参考までに2005年以降の米国での完全失業率とインフレ指標の関係を下に掲載しておきます。現在の米国では、逆に、輸入デフレーターの下落がGDPデフレーターを上昇させています。

 話を日本に戻します。一方、所得はこの間低迷しましたが、これには輸入デフレーターの上昇(つまり、GDPデフレーターの低下)が強く影響しています。

いいかえれば、少なくとも2006年頃の我が国経済は、実需の側面からは明らかに景気が回復していたものの、所得など貨幣的な側面からみれば大きな不都合があったということができるでしょう。「デフレ」を実需の側面から判断するか貨幣の側面から判断するかによって認識は異なったものになり、それに応じ、物価指標として国内需要デフレーターを使うかGDPデフレーターを使うかが分かれてくることになります。
 金融政策では、原則として期待インフレ率とGDPギャップをもとに判断されることになりますが、期待インフレ率を国内需要デフレーターによって判断することになれば、金融政策はより実需の側面に影響を受けたものとなると思われます。

http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20080729/1217341589

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 話は大きく変わりますが、主観的幸福度は、所得の水準だけではなく失業経験によって大きく低下することが大竹文雄先生の研究などによって指摘されています。所得を重視する立場は貨幣的な側面、失業経験を重視する立場は実需的な側面に関係してきます。功利主義者にとっては、この後者の立場によって立って政策を考えることが正しい、といってしまったら言い過ぎになるでしょうか・・・たぶん、言い過ぎです。そして、なぜそれが「言い過ぎ」なのかを実証する研究が必要だと思っています。

*1:しかしまあ、号外のつもりがとんだことになってしもうた・・・コメント欄も、当分の間、凍結を解除します。(08/08/09付けで凍結に戻しました。)もはや何の期待もしていないBlogsphereではありますが・・・サービスサービス。

*2:違っていたらスミマセン。