ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

ソーシャル・ブックマークによって破壊されるブロゴスフィア

 はてなブックマークに代表されるソーシャル・ブックマーク・サービスは、個人がお気に入りのウェブ・サイトをブックマークするというその本来の機能を超えて、多様な機能を持つようになっている。そうした機能として代表的なのは次の二つだろう。
 第一に、ブックマークされたサイトに関するコメントを書き残し、それが多くの人の目に触れることである。ブログには、通常、読者がコメントを書き残せる仕組みがあるが、最近問題となったのは、ブログ主が気に入ったコメントだけを残し批判的なコメントを削除することで、コメントが検閲されてしまうことである。*1この点、ソーシャル・ブックマークはブログ主に管理されることなく、検閲を受けることもない。*2ソーシャルな空間の中で自分のコメントを残せるというのは一つのメリットといえるだろう。
 第二に、多くの人に注目されたエントリーには、多くのブックマークがつく。つまり、雲霞のごときエントリーをスクリーニングしてくれることで、面白いエントリーにはさらに多くの読者がつき、その書き手に対する評価も高まる。最近は、ブックマークを行うこと自体評価の対象となることもあるようで、僭越ながら、私も経済系ブックマーカーとして評価を頂いたことがある。
 通常、物書きに対して編集者がスクリーニングの機能を果たすが、ネットにはそうした機能はなく、誰もが書きたいことを書く。しかし、読み手の時間は有限だ。そこで、ソーシャル・ブックマークが読み手の関心を誘導し、一定のスクリーニング機能を果たすのである。

 では、このソーシャル・ブックマークは、ブログの世界に多くのメリットをもたらすものだったのだろうか。答えはそう単純ではない。確かに、ソーシャル・ブックマークは無数のエントリーをスクリーニングしてくれるが、書かれていることの裏付けを取るわけではない。人気を集めているエントリーが専門的な見地から見て正しいものとは限らず、仮に正しいとしても、その前提から「異論」を排除するような極論が好まれる傾向もみられる。ブログ主が匿名であったり社会的に無名である場合は、それによって実生活上の信用が傷つくこともなく、むしろ新たな信用につながることもある。
 つまり、ソーシャル・ブックマークは、優れた内容のエントリーをスクリーニングしてくれる一方で、内容の正しさよりも、面白く過激な極論に惹かれる傾向も別の一面としてもっているのである。丁寧に論じたところで「編集者」はおらず、誰かがクレジットをつけてくれるわけでもない。こんな現実であれば、多くの人が生半可なエントリーで注目を集め「アルファ・ブロガー」を目指すようになったとしても、一概にそれだけを批判するわけにはいかない。*3あるいは、生半可なエントリーで誰もが注目され得るところが日本のブログ界の面白さなのだともいえる。だが、内容の妥当性を顧みず、極論や罵倒合戦だけに人々の関心が向かうならば、ブロゴスフィアは早晩信用を失い、暇人の戯れの場と化すことになるだろう。*4

 この問題の解決策として指摘されているのは、実名を使うよう規制するというもので、例えば、経済学者の池田信夫氏が提唱している。しかし、これも決定的な解決策とはなり得ない。学者・研究者の中にも、ブログを開設したとたんに多くの注目を集める有名な人もいれば、むしろ、ブログを開設することで注目を集めたいと考える人もいる。後者の中には、妥当な議論よりも過激な罵倒によって注目を集め、その後の著書の販売や一回数十万円の講演機会を得ることを望む者もおろう。つまり、実名規制は、この問題の解決のための決定打にはならない。

 自分の考える解決策は生半可なものであるが、アイデアとしてここに述べるとすれば、例えば、専門家やその見識に信用のある人物がブックマーカーとなって、そこで注目を集めたエントリーをより高く評価することである。現実のブロゴスフィアにも、意図せずしてエディター的役割を果たしている専門家がおり、こうした人々の行為がいわば「ナッジ」の形で機能し、ある程度の信頼性が確保されている。しかし、そうした機能は次第に薄まりつつあるというのが率直な印象である。専門家も、ブロゴスフィアの現実に飽きてきているのではないか。ここは、運営会社等のイニシアチブを求めたいところである。
 もう一つは、ネットのインタラクティブ性を活用することである。先にあげたソーシャル・ブックマークの第一の機能は、そのメリットの一方で、ブロゴスフィアインタラクティブ性を喪失させた可能性がある。ネットのインタラクティブ性を活用する上では、一方通行のソーシャル・ブックマークよりもTwitterのようなサービスの方が有効である。これらのサービス間の連携がうまくとれるようになれば、掲示板全盛期の同等のインタラクティブブロゴスフィアを呼び戻すことができるかも知れない。

(了)

*1:トラックバックの機能にも同じ問題がある。また、トラックバックによって自サイトに引き寄せられる傾向は、近年、かなり減ったような感がある。

*2:はてなブックマークには、最近、目隠し機能がついたようではあるが。

*3:このエントリーも、そんな過激な極論を目指したものかも知れない・・・orz.

*4:ブロゴスフィアの「レモン市場」化である。(http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20081226/1230333727