ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

日本経済の実物的側面は改善する一方、デフレの定着は明確に

※貨幣数量方程式に基づいた寄与度分析のグラフを差し替え、文章を修正しました。(09/12/04)

 本日、7〜9月期の四半期別GDP速報が公表されました。実質GDPは1.2%(年率4.8%)の増加となり、予想を上回る高い伸びとなりました。特に、前四半期までマイナスが続いていた設備投資の伸びがプラスになったことが注目されます。また、このことは、このところ改善が続いていた雇用面の指標とも平仄が合うもので、2009年の半ば以降、経済の実物的側面は比較的堅調であったことを裏付けています。

むろん、リスク要因として、政権交代によって経済危機対策の一部に執行停止の動きがあることから、このままの堅調さが続くとは限らないという見方も可能ですが、昨年末にみられたような劇的な経済収縮と雇用調整が今年も起きるという見方は、いささか悲観的すぎるのではないかと思われます。
 むしろ懸念されるべきなのは、経済の貨幣的側面です。国内需要デフレーターのマイナス幅は、前回の結果からまたさらに大きなものとなりました。


(注)GDPデフレーターに対する寄与度は、名目・実質GDPに対する各項目別の寄与度から算出した寄与度の後方4四半期分の合計とした。

この国内需要デフレーターの動きを、修正貨幣数量方程式に基づいて寄与度分析をしてみると、次のようになります。

 貨幣流通速度の低下による物価の引き下げ寄与は緩和される一方で、実物的側面の堅調さが、これまでのように物価を引き上げようとする寄与を弱める形になっています。総じてみれば、今後、現下の極度の物価低下傾向を和らげる方向に進むでしょうが、それをゼロ近傍、あるいは1〜2%程度のプラスにまで引き上げる可能性は、当面、かなり低いものと考えられます。
 また、貨幣供給の拡大が物価を引き上げる傾向はやや大きくなりましたが、その大きさは、2000年代初頭の頃に比べても小さなものに止まっています。貨幣供給は、日銀がマネタリーベース(ハイパワードマネー)の供給を拡大するか、ないしは貨幣乗数が上昇することによって拡大します。貨幣乗数は、一般的には、期待インフレ率が上昇することによって高まる*1ので、この寄与を高めるには、金融緩和政策の現在、および将来に向けたコミットメントが鍵を握ることになります。
 今後のマクロ経済の先行き*2、就中、政策効果の剥落がある程度予想の範囲に止まるかどうかによってその見方は変わってくるのでしょうが、実体経済は、当面の物価低下傾向(デフレ経済)を織り込みつつ、つまり、期待インフレ率のマイナスが続く中で、たどたどしく、その実物的側面を拡大させていくのではないか、と考えています。デフレ下における経済成長は、所得を通じて消費が停滞するため、たどたどしいものにならざるを得ません。雇用面も劇的な改善は望めないものの、一方で、今後さらに大きく悪化するようなこともなく、(自然失業率からはほど遠いという意味での)完全失業率の高水準が、当面、継続することになるように思われます。
 当然のことながら、所得面の停滞は、これまでと同様に続くことになります。しかしながら、これをもって「経済は成長しているのに賃金が伸びないのは、企業が儲けすぎているためだ」などと主張することはできません。デフレ下において、単位労働コストを引き上げることは、企業経営に負荷を与えることにしかならないのです。問題は、実体経済が、当面デフレが続くことを織り込み、期待インフレ率がマイナスになっている、というマクロ経済環境の方にあるわけです。
 2002年以降の景気回復期にみられた所得の停滞は、その原因の一部は、グローバル化に対応して経営が株主等を優遇したためだとみることはできますが、多くの部分は、デフレというマクロ経済環境において企業がそれに順応する中で生じたものとみることができます。また、経営のグローバル化にともなう企業の付加価値配分の変化も、仮にマクロ経済環境がインフレ的傾向にあったとすれば、それほど目立ったものにもならなかったでしょう。このように、社会の中で生じたさまざまなフリクション、分捕り合戦のようなものもまた、デフレ経済ならではのものといえるでしょうね。
 さらに、このような環境で雇用に関する規制を緩和し、短期の雇用契約を継続するような非正規的雇用者を増やすことは、失業を縮小することで短期的な雇用環境を改善させ、就業「弱者」の生活を一時的に安定させることにはなりますが、中長期的には、「貧困ボーダーライン」から離脱できない労働者層を拡大させ、社会全体でみた技術的基盤、技能形成システムのようなものをも弱体化させることになるだろうと考えています。つまり、雇用面における規制緩和が中長期的な成長戦略にプラスとなるのかマイナスとなるのかは、一概に判断できるようなものではありません。あるべき姿は、期待インフレ率が上昇する中で経済が成長するようなマクロ経済環境を達成し、その上で、雇用に関する規制は、「強化」する側面も含めて再検討すべきと考えます。

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 なお、先日の米国オバマ大統領の東京演説では、「主にアメリカの消費者とアジアの輸出業者に依存しながら成長することの限界」が指摘され、米国の雇用戦略として、輸出に重点を置くとの意図が述べられています。

http://www.whitehouse.gov/files/documents/2009/november/president-obama-remarks-suntory-hall-japanese.pdf

こうした米国の経済戦略の下では、かつてのように、輸出を通じて日本経済の「量的」な拡張を目指すことには限界があり、今後のマクロ経済の先行きに悲観的になります。より内需の拡張を意図するのであれば、経済の貨幣的側面、とりわけ所得の側面を拡張させる必要があり、そのためにも、デフレ期待からの早期の脱却が望まれます。

*1:実質金利が低下するため。また、金融システムが比較的健全な日本の現状を考えれば、金融仲介機能の低下によって信用創造が十分に働かないがために貨幣乗数が低下している、という可能性は低いと考えられる。

*2:いわゆる「二番底」についての見方。