備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

完全失業率の改善

※『ガジェット通信』に掲載していただきました。(03/23/10)
http://getnews.jp/archives/52631

 やや古い話題となりますが、2010年1月の完全失業率は改善し、4.9%となりました。この「改善」には、これまでの動きとは異なる傾向がひとつみられます。就業者数の前年差は、これまで100万人を超える減少幅でしたが、1月は79万人の減少にとどまっています。産業別にみると、製造業の減少幅に変化はありませんが、サービス産業では、傾向が変わってきた様子が伺えます。
 ただし、統計特有のブレというものもあり、2カ月後には傾向が再び変わるという可能性もあります。ちなみに、ESPフォーキャスト調査の結果をもとにGDP就業者関数を推計すると、就業者数は今後も減少傾向で推移することが予測され、今回はそのトレンドから大きく逸れた結果となっています。*1経済全体の改善がようやく雇用にも及んできた、と判断するのは時期尚早のようです。

 また、今回の完全失業率の改善には、これまで完全失業者の増加に遅れて推移していた非労働力人口の増加がそれに追いついてきた結果という一面もある、との解釈もできます。*2

 昨年の完全失業率の急激な上昇局面において、非労働力人口の増加が、これまでの不況に比べて緩慢であったことは、昨年8月に指摘しているとおりです。

http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20090830/1251620282

その後の完全失業率の改善は、今度は逆に、非労働力人口の増加が追いついてきた結果だということができます。これは、本来的な雇用情勢の改善とはいえないものであり、そのことは、「真の失業率」の推計結果にも現れています。(「真の失業率」のデータは、2009年のデータがそろったことを受け、過去に遡って改訂しています。)こうしたことは、労働力人口のフローに焦点を当てることでみえてくるものであり、オークン法則から単純に推計した場合の完全失業率の予測には現れてきません。

 今後、雇用情勢の改善が確実なものになれば、非労働力人口は再び減少し、労働市場に参入してくる人が増えることになります。また、これまで、需要が大きく収縮する一方で雇用の悪化は抑制されていたことから、この先の労働需要の増加は緩慢なものとなることが考えられます(いわゆる「ジョブレス・リカバリー」)。
 このことは、すでに新規学卒者の就職内定状況の低下として現れていますが、それに加えて、長期失業者にも増加する傾向がみられます。米国でも、長期の失業が労働者のスキルを低下させることについての懸念があるようです。先日のエントリーでは、職業訓練についての二つの側面について言及しましたが、このような場合には、その第一の側面が要求されることになるでしょう。(ここでは、職業訓練を「目的」として捉えており、「手段」についての議論は行いません。その「手段」としては、職業訓練バウチャーの配布などを含めて、さまざまなものが考えられます。)
 なお、就業者数の減少傾向を反転させるため、実質GDPのより高い成長が求められることは、いうまでもありません。

*1:もちろん、説明変数を恣意的に選択したモデルによる推計であり、過去のあてはまりのよさが、将来のあてはまりのよさを約束するものではありません。

*2:ただし、今回は、季節調整値でみると、非労働力人口は大きく減少しています。