ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

新規学卒者の就職環境&真の失業率

 先日、来春の大学卒業者の就職内定率が12月1日現在で68.8%(前年73.1%)、高校卒業者が70.6%(同68.1%)となり、大学卒業者の就職内定率は昨年を下回り過去最低となったことが大きく報道されました。就職内定率は今後4月に向けて上昇することになりますが、4月時点においても昨年の91.8%を超えることは困難な見通しです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000010f10-att/2r98520000010f6n.pdf

 この問題はネットでも話題になりましたが、大きくわけて二つの論点があり、ときにそれらが混在する傾向がみられます。その二つの論点とは、つぎのようなものです。

  • 日本の労働市場は、大規模な景気後退において既存の雇用者の雇用を守る一方、採用調整によって雇用を縮減する。また、日本企業には、大企業を中心に長期雇用慣行がみられる。このため、大学卒業時に大規模な景気後退にぶつかると、採用時の低い労働条件がその後も一生涯継続する(いわゆる「世代効果」)。
  • 就職内定率は、大規模な景気後退により需給ギャップ(供給超過)が高まったことで、大きく低下している。

 第一の論点は、今回発表された低い就職内定率とは関係のない論点ですが、この問題は、大規模な景気後退が生じた時期に顕在化し、おおくの人の注目を引くことになります。しかしこの論点は、異なるグループ間において、資源や機会の配分を変えたとき、その結果が誰の効用を高め、それが社会正義の観点から正当化され得るか、あるいはこれまでの慣行に対するコミットメント(暗黙の契約など)が失われることの負の側面はどう考えるべきか、というような複合的基準において議論される(べき)問題であり、必ずしも、その議論は経済学の枠内に収まるわけではありません。むろん、学識者の意見は考慮されるべきですが、最終的には、議論「参加者」の妥協によって結論が出されることになります。ただし、議論に参加することができない当事者(新規学卒者)への「配分」が少ない場合、その議論を正当化(正統化)することが困難である、という問題は残ります。実際の議論をみると、卒業後3年以内は新卒扱いとすることなどが検討されています。これは「世代効果」への漸進的な対応と考えられ、理屈からしても正しい方向性といえます。

 一方、第二の論点、特に金融政策については、これまでのところほぼ経済学者の議論に委ねられており、最大限その専門的知見が尊重されることが(少なくとも名目的には)正当化されています。もちろん、財政・金融政策は資源配分を変えることにつながるため、各方面からの異論がでることは避けられず、それらの異論を軽視すべきでもありません。また、この問題に関しては、極端なリカード主義者でない限り、いまだ大きな需給ギャップが存在していることについてほぼコンセンサスがあるとみていいでしょう。すなわち、需給ギャップとその結果として生じているデフレに対し、どのような手段によって対処すべきか(例えば、財政と金融のどちらをどの程度重視するか)といった個別の意見の相違はあっても、総需要の拡大/賃金・物価の引き上げが必要であることはおおくの人が認めており、経済情勢や雇用環境の改善に利害をもつのである以上、それに反対する理由はありません。当たり前のことを語る人間には、当たり前のことを言わせておけばいい、ということです。*1

 金融政策の目的が過度に物価の安定を志向していることへの批判は、日本に限らずみられるところです。最近では、マクロ経済学に関する議論が「政治化」しており、単純化された議論の流れに違和感を感じることもありますが、基本的には、金融政策の目的は、期待インフレ率と需給ギャップ完全失業率)からなる社会損失関数の最小化にあると考えられます。*2新規学卒者の就職環境に関していえば、それが今後どのように推移するか、国際比較における日本の特徴はどのように説明することができるか、これまでの景気回復期と比べて今回の回復期の違いは何か、といったことを分析することが重要です。このような議論を合理的な推計にもとづいて行うためには、専門的知見を十分に活用する必要があります。

 つぎに、最近の雇用情勢ですが、昨年12月の完全失業率は4.9%と前月よりも0.2ポイント改善しています。真の失業率*3でみると、いまだ高い水準にあるものの、緩やかに改善しています。

 雇用情勢は改善しているものの、雇用者の増加は主にサービス業によって牽引されたものであり、製造業の雇用者が大きく減少していることが気がかりなところです。