ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

貨幣面からみる日米経済

 2月16日のエントリーでは、経済の実物面(実質GDP)の今後の予測から、雇用情勢が今後どのように推移していくかを予測した。今回は、2月14日に公表された2010年第4四半期のGDP速報をもとに、日本経済を貨幣的側面からみるとともに、米国のデータと比較する。

 まず、GDPデフレーターの前年同期比を需要項目別の寄与度でみると、国内需要の寄与は引き続きマイナスであるが、その幅は緩やかに縮小している。ただし、純輸出の寄与も引き続き大きなマイナスであり、これらをあわせたGDPデフレーターの前年同期比は、大きなマイナスが継続している。

 つぎに国内需要デフレーターを貨幣数量方程式に基づき、(1)市中の貨幣量(ベースマネー信用創造による貨幣供給の増加が物価を上昇させる効果)、(2)貨幣流通速度(貨幣の回転率が上昇することで物価が高まる効果)、(3)財・サービスの数量(商品数量の増加が物価を低下させる効果)のそれぞれの寄与別にみると、このところおおむね同じような傾向がみられており、不況期の特徴である貨幣流通速度の低下は一時期よりも小さくなっている。

 市中の貨幣量(貨幣供給)の寄与は、このところ2%ポイント前後のプラス寄与が継続しており、おおむね一定の幅で推移しているが、貨幣供給の増減率をみると、この1年間は緩やかに低下している。

 ベースマネーが増加する一方で貨幣供給が低下するのは、企業が外部資金を借り入れようとする意欲に乏しいため信用創造が十分に働かず、貨幣乗数が低下しているためである。つぎにこの貨幣乗数の低下要因をみる。要因分解の方法は、2010年5月26日付けエントリーにつぎのように記載したとおりである。

ちなみに、貨幣乗数は、

のように表現することができるため、貨幣乗数の伸びは、現金・預金保有比率が変化することによる要因と、準備預金の預金に対する比率が変化することによる要因にわけてみることができます(現金・預金保有比率は、さらに、(A-1)非金融機関の現金・預金保有比率、(A-2)金融機関の現金・預金保有比率にわけられます)。なお、準備預金の預金に対する比率は、通常の経済ではおおむね「法定準備率」に一致していますが、量的緩和政策下では、保有を義務づけられた準備預金額を超える当座預金への需要が喚起されるため、大きく変動することになります。

 結果をみると、貨幣乗数は準備預金・預金比率の上昇によって低下しており、「流動性の罠」と量的緩和が組み合わされる際に生じるであろう傾向から低下していることがわかる。一方、現金・預金比率はこのところ低下していたが、その低下幅はしだいに縮小しており、今後は貨幣乗数を低下させる方向に働く効果をもつであろうことが予想される。これらは、1990年代後半以降のデフレ期の傾向の再現であり、日本経済は、つかの間の回復期を経て、再び長期停滞の様相をみせていることが懸念される。

 続いて米国経済である。米国経済については、これまで再三指摘したように、日本型の長期デフレに陥る懸念はおおむね払拭されているようにみえる。GDPデフレーターはこのところ緩やかに上昇しており、これまでマイナス寄与であった民間設備投資のマイナス寄与もしだいに縮小している。

 また、国内需要デフレーターを貨幣数量方程式に基づく寄与度でみた場合、貨幣流通速度はすでにプラスに転じていることがわかる。

 貨幣供給の増減率も、一時期大きく低下したが、現在は再び上昇に転じている。

 貨幣供給の上昇は、ベースマネーの著しい増加によって生じたものであるが、それに加えて、貨幣乗数の低下幅も縮小しており、金融機関を中心に民間経済主体の現金保有傾向はしだいに改まりつつある。貨幣面からみる限りでは、米国経済はすでに正常化しつつあり、経済主体のデフレ期待はおおむね払拭されたのではないかと思われる。