備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

所得と自殺率の相関性(補足・その3)

 これまでのエントリーの締め括りとして、自殺率を被説明変数とするパネルデータを分析する。今回用いる自殺率は、自殺予防総合対策センター『自殺対策のための自殺死亡の地域統計1973-2009』に掲載されている男性の年齢調整自殺率(1996〜2008年)とし、説明変数は、1人あたり雇用者報酬と有効求人倍率とした。なお、年間日照時間のデータは入手できなかったため、今回の分析では含めていない。このため、都道府県ごとの日照時間の違いは、その他の異質性とともに「固定効果」に含まれることとして解釈される。

 なお、パネルデータの分析では、モデルの選択に細心の注意が必要であり、誤ったモデルを用いれば、結論は事実と異なるものとなる。*1今回は、一般的なつぎの3種類のモデルによって推計を行い、統計検定によって評価を行う。

・プールドモデル
 すべてのデータを一括して(時系列、クロスセクションの区別なく)扱い、通常の最小二乗法を行う。

・固定効果モデル
 時間を通じて変化しない都道府県ごとに異なる性質(固定効果)をモデルの中で明示的に取り扱うモデルであり、これを数式で表せばつぎのようになる。

今回の分析では、日照時間の違いを説明変数に含んでいないため、自殺率に影響をあたえ得るその他の異質性とともに、固定効果として扱われる。

・ランダム効果モデル
 固定効果モデルと対照的に、都道府県別の異質性は固定パラメーターとしてではなく、与えられた確率分布からランダムに決定される。このモデルでは、都道府県別の異質性は、説明変数と無相関であると仮定している。

 分析結果は以下のとおりである。

 具体的な説明は省略するが、統計検定の結果から、固定効果モデルが選択される。
 最後に、分析に用いた年齢調整自殺率(男性、1996〜2008年)の年平均値と、都道府県別の異質性を表す固定効果をみる。

 結果は、これまでの印象とは大きく異なる。自殺率にあたえる都道府県別の個別の違いは、千葉と大阪が、他の都道府県よりも跳び抜けて高い。また、秋田などの自殺率の高さは、所得・雇用をめぐる環境の相対的な悪さによって生じたものだということになる。北東北3県では年間日照時間が低く、これを説明変数に加えれば、固定効果はさらに引き下がる可能性もある。
 いずれにせよ、今回の分析は試みに行ったものであり、これを政策評価に実際に用いるには、さらに多面的な検討が必要であろう。

 なお、今回分析に用いたパネルデータを、以下に提供する。

app.box.com

[データの順序] 1996年北海道、...1996年沖縄、1997年北海道、...2008年沖縄

[データの名称] sr:年齢調整自殺率(男性)、ec:1人あたり雇用者報酬、q:有効求人倍率

*1:わかりやすい説明としては、北村行伸『パネルデータの意義とその活用――なぜパネルデータが必要になったのか』(日本労働研究雑誌 2006.06)など(http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/06/)。