ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

東北6県の所得の低下とその要因

 先日のエントリーで触れた東北6県における1人あたり雇用者報酬について、もう一度取り上げてみたい。今回は、1998年度と2008年度とを比較してみる。

 このようにしてみると、東北6県の所得水準は全国平均よりも総じて低い。特に、北東北3県では低く、しかも、この10年間に大きく落ち込んでいる。この落ち込み幅は、秋田県において、特に著しいものとなっている。
 一方、山形、福島の2県では、1人あたり雇用者報酬の落ち込み幅はそれほど大きなものではない。

 地域的に異なる所得の変動が生じた理由を探ることにする。1人あたり雇用者報酬を決定する要素には、主として、労働生産性労働分配率、物価の3つがある。先日のエントリーでも触れたように、生産性が高まり、例えば、1人の労働者が生産する商品の量が増加すれば、その販売によって得られる収益は増加し、賃金を引き上げる余地が生まれる。しかし、市場に供給される商品の量が増加しても、需要が停滞していれば、商品の価格が下落し、その分、賃金を引き上げる余地は狭まることになる。また、労働分配率が低下すれば、生産性が高まっても、労働者への配分が縮減されるため、賃金が高まらないということがあり得る。企業が将来の経営環境に不安を感じると、たとえ株主配当や役員報酬を引き上げなかったとしても、内部留保の水準を高めるため、賃金の引き上げには応じないかもしれない。特に、この内部留保は、市場における貨幣の回転率(貨幣流通速度)を停滞させる要因となり、インフレ率が上昇しない原因にもなっている。*1
 よって、1人あたり雇用者報酬を決定する要素を個別にみていくことにする。

 まずは労働生産性からみていく。労働生産性は、各県ともにこの10年間の間に高まっており、特に、山形、福島の2県では大きく高まっている。これら2県の労働生産性が高まった理由としては、製造業の構成比が高く、生産全体の2割以上を占めていることが上げられる。労働生産性をみる限りでは、秋田県の水準は北東北3県の中では最も高く、所得が低いことの理由をここに見出すことはできない。

 つぎに、労働分配率をみる。労働分配率については、秋田、福島の2県が他県と比較して低く、特に秋田県では、この10年間に労働分配率が著しく低下している。福島県は、水準は低いもののこの10年間では高まっている。秋田県と対照的なのが山形県であり、労働分配率はこの10年間に著しく高まっている。ここから、秋田県の所得が低いことの重要な理由が、労働分配率の低さと、近年、その水準がさらに低下していることにあることがわかる。

 最後に、1人あたり雇用者報酬のこの10年間の増減率を、労働生産性労働分配率、物価それぞれの要素にわけてみることにしたい。なお、増減率のうちこれら3つの要素以外の部分は県内総生産と県民所得の乖離であり、具体的には、県外からの純所得などが相当する。この要素も、実際には無視し得ない大きさをもっており、特に岩手、秋田の2県では大きなものとなっている(それぞれ▲5.2%、▲4.3%)。

 端的に結論をいえば、この10年間、労働生産性は高まったものの、物価が大きく下落したことにより、1人あたり雇用者報酬は減少した、ということである。しかしながら、物価下落の大きさは地域ごとに異なっており、山形や福島では特に大きく、労働生産性は他地域にも増して高まっているものの、所得は低下する結果となっている。
 物価が下落しているということは、いいかえれば、財・サービスに対する需要が停滞しているということであり、地域内での消費や投資需要を高め、貨幣の回転率を高めることには大きな意義がある。先のエントリーでは、「地産地消」を推奨したことについての批判的なコメントがみられたが、比較優位性の観点から「地産地消」を批判する際には、労働力の希少性が高い経済が前提となっていることを見逃すべきではない。上述のグラフに現れているような経済の状態を前提に考えたときには、地域内での生産と消費を推奨し、貨幣の流通を地域内にとどめることは、当該地域の活性化を図る観点から評価できるのである。
 なお、秋田県では、物価の下落に加え、労働分配率の低下もまた所得低下の重要な要素となっている。所得が停滞すれば、消費を通じて地域経済の活性化を図ることも困難になる。秋田県については、経済の好循環を創り上げる上で、地域の視点でみて「売れる」商品を開発するとともに、消費を盛り上げる上からも、労働分配率を高めることがひとつの起点となり得るかもしれない。

*1:企業が内部留保を含む資本の水準を長期的に引き下げ、外部資金を調達するようになれば、その分信用創造が働くため、貨幣供給は増加し、インフレ率は上昇するようになる。