ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

太田聰一『若年者就業の経済学』

若年者就業の経済学

若年者就業の経済学

 数々の研究成果を発表している(「現役」の)労働経済学者による若年雇用問題に関する研究サーベイで、一部、書き下ろしも含んでいる。若年雇用問題は、(1) 人的資本レベルの長期的な低迷、(2) 「貧困の連鎖」、(3) 少年犯罪発生率の上昇や過激な政治運動、(4) 自殺率の上昇、(5) 年金制度の維持が困難、(6) 晩婚化・未婚化と少子化の促進、などを通じて、社会全体に悪影響をもたらす可能性が高いとする。以下、本書で指摘されているポイントのうち、興味を引いたところを簡単に整理する。

  • 近年の若年雇用環境の悪化は、属性別に異なる影響をもたらしている。大企業正社員の採用数が減少し、大学・短大卒では中小企業の採用数の増加でその分が補われた一方、中・高卒ではそのしわ寄せを受け、非正社員の数が増加した。
  • 失業フロー率の分析では、失業率の上昇は、「就業からの流入率」によってそのおおくが説明されるが、女性では「非労働力への流出率」も大きい。女性では、これまで、仕事を失うと非労働力化することがおおいとされてきたが、近年、その効果は小さくなっている。
  • 特定世代の大きさが失業率に影響することを「コーホート・クラウディング」というが、世代間失業率格差の回帰によってその効果を確認することができた。(労働政策研究・研修機構『失業構造の理論的・実証的研究』(2010年))
  • 労働需給(有効求人倍率)の変化にともなう若年失業率の変動が中高年より小さいことはパズルであるが、それを説明する一つの仮説として、中高年の場合、景気が良くなっても転職先を見つけることは容易でなく自発的失業が増えない一方、若年では自発的失業が増えることが考えられる。
  • 「世代効果」とは、(1) 個人の過去の就業経験が現在の経験に因果的効果をもち、(2) そうした(過去の)就業経験は特定世代共通のショックによって引き起こされており、(3) 世代共通のショックとして卒業段階の労働市場の動向がある、という3つの条件に係わるもの。
  • これまでの研究から、学卒時の労働市場の需給バランスは、若年者の就職可能性や、就職したときの雇用形態、勤務先の属性(産業や規模)に影響を及ぼすことが明らかにされている。ただし、留年や進学行動が、卒業時の労働市場の需給バランスによって左右されることも考えられる。
  • 1990年以降、一般労働者(フルタイム労働者)として就職した新卒者の割合は低下しているが、中・高卒で際立って低下している。
  • 企業の採用が新卒に集中すると、転職が困難となり、最初の企業の定着することを選びがちになる。それが中途採用市場での人材不足に拍車をかける。その結果、「新卒でなければ優秀な人材を採用できない」という企業の信念を裏打ちし、結果的に、フリーター等の再チャレンジが困難になる(囚人のジレンマ)。
  • 新卒採用は企業にとって「投資」であり、現在の経済状況の悪化に出口を見出しにくくなると、企業は若年採用を大きく減少させる。1990年代に「就職氷河期世代」が登場した背景には、企業が長期的な成長や存続に自信を失い、将来の稼ぎ手の採用をもためらったことがあるかも知れない。
  • 企業特殊的訓練を積極的に行う企業は、新卒採用を積極的に行う傾向がある一方、(その属性は)中途採用には有意な効果を与えない。また、今後3年間で「伸びる」とする企業も、新卒採用を積極的に行う傾向がある一方、(その属性は)中途採用には有意な効果を与えない。
  • 世代間の職業類似性は高まっている(ダンカン指数により検証)。その結果、中高年はこれまで若者が担ってきた仕事に大きく進出している。
  • 玄田有史は、中高年比率の高い事業所で若年採用が抑制される傾向を証明し、若者は親の臑をかじって生活できるため真剣に職探しをしないという「パラサイト・シングル説」(山田昌弘)への反証を行った(玄田有史仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』(2001年))。若年と中高年の「置き換え効果」は労働組合が存在する企業で強い傾向があり*1、「インサイダー・アウトサイダー理論」と整合的。
  • 東京、大阪など新規高卒者の県外就職をおおく受け入れている地域の求人シェアと、地域間求人・求職ミスマッチ指標は連動する。県外就職率を説明変数とする回帰分析では、「求人シェア」および「ミスマッチ指標」は統計的に有意となり、前者は県外就職率の93%を説明する。
  • 県外就職は地域間の若年失業率格差を平準化させるが、1990年代からの景気悪化によって、県外就職は停滞し、地方の若年失業率を押し上げた。
  • 都道府県別若年失業率に関するクロスセクション分析では、新卒求人倍率(−)、中・高卒者比率、第3次産業比率、大企業比率(−)等が有意となる。非正社員比率は、離職率を高めるとともに再就職率も高めるため、有意とはならないと考えられる。
  • 地方では仕事を得ることへの切迫感が強く、非正社員の仕事が少ないため、正社員への志向が高くなる。一方、都市部では高学歴者がおおく、「専門的・技術的職業」への志向が強い。全国一律的な若年雇用対策は、各地域のニーズにマッチしない可能性が高い。
  • 職場内のスキル教育はOJTが基本で、その際に効率的な訓練方法は、ベテランによるマンツーマン教育。ベテランが職を奪われてしまうという不安を覚えることなく若手に仕事を教えることを奨励するため、企業は、ベテランの雇用や賃金を若手との競争から守る必要がある(動学的効率性)。
  • 「業績が悪化する不況期こそ、能力開発に有利な時期だ」という経済学の仮説が存在するが、1990年代の日本企業の能力開発は低水準で推移。
  • スキル水準の向上は、「費用低下効果」、「補完効果」により若年採用にプラスの影響を及ぼす反面、「労働節約効果」によってマイナスの効果ももつ。ただし、後者はそれほど大きくないとの推測ができる。

*1:ただし、記述をみる限り、かなりの留保が必要。