備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

オリバー・ウィリアムソン(浅沼萬里、岩崎晃訳)『市場と企業組織』(3)

市場と企業組織

市場と企業組織

 第十章においては、内部組織と市場の関係について、これまでの「効率性」を中心においた議論に代えて、「進歩性」を中心においた議論を行う。すなわち、規模の小さい企業が数多く存在する競争的な市場をもつ産業と、少数の大企業からなる(寡占的な)産業のどちらが、より技術進歩を促進する構造をもつかということについて検討される。前者の構造に優位性をおく議論が、マーシャルを端緒としてスティグラーなどによって行われている一方、シュンペーター、そしてそれを敷衍したガルブレイスによって、「大規模企業と構造的な独占が技術進歩をもたらす傾向がもっとも大きい」と主張されている。後者については、同書は「ガルブレイス仮説」と命名し、この章全体にわたってその正当性が検討されている。
 同書で取り上げられる数々の実証研究や議論の精緻化をみても、「ガルブレイス仮説」は必ずしも支持されるものではないとのことであるが、一方で、競争的な市場構造をもつことがその産業の進歩を高めることを指摘し得るわけでもない。その上で、興味を引かれたのは、発明などのリスクの高い活動を行う上での資金調達に関する議論である。独占的大企業は、絶対額でみて大きな利潤を上げることができ、このことは資金の内部調達(利益準備金に対応した資産の活用)を容易にするが、特にリスクが高い研究開発費用の調達にあたっては、銀行等からの外部調達は難しく、内部調達が容易な独占的大企業の方が進歩的な発明などが進みやすくなるという議論ができる。しかしながら、ベンチャー・キャピタルの存在を考慮に入れると、小企業が資金調達上不利となる度合いはそれほど大きなものではないかも知れない。また、大企業の「官僚主義的」傾向は、リスクの高い活動に資金を投入することをためらわせる可能性があり、(本書には直接的には触れられていないが、)資本市場が流動的で、テイク・オーバーが活発に行われている場合などは、剰余金の分配を求める株主の要求が高まることになるだろう。
 しかしながら、同書が指摘するように、集中度の高い産業における支配的企業は、革新はのろのろとしか行わない一方で模倣は積極果敢に行う存在であることや、大企業は、相対的にみて、リスクの高い基礎研究に研究開発費を割り当てない傾向がみられることなどを示す実証研究があり、こと技術進歩という点に限れば、「ガルブレイス仮説」は必ずしも正当性をもっていないようである。なお、このことは、韓国では極めて大きな企業であるサムスン電子が作り出す電子製品などをみても感じられるところではないだろうか。また、技術進歩に寄与することが、当該企業にとって、必ずしも長期的な利益成長をもたらすわけではない可能性についても考える余地がある。

(未了)