ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

景気回復にともなう雇用の改善には、世代ごとに異なる動き(その2)

 前回のエントリーでは、非正規職員・従業員数が2002年から2007年までの間にどの程度変化したかを世代別に確認し、その結果、

  • この間、景気回復期にあり、新規学卒者の就職状況も改善していたが、2007年もほぼ同数の非正規職員・従業員数(約2千人)が20〜24歳層にみられる。
  • 世代別の変化でみると、1977〜82年生まれの層では、約2千人から約千7百人程度まで非正規職員・従業員の数は減少しているものの、それより年齢が上の世代では、その数はむしろ増加している。

ということがわかった。

 今回のエントリーでは、子育て期に離職し、その後パートで働くというライフサイクルが存在し、20歳台後半層以降にパートの構成が大きくなる女性を除いた男性だけのデータによって分析を行った。その結果をみると、1972〜77年生まれの層(2002年時点における20歳台後半層)においても非正規職員・従業員の数および割合が低下している点が全数でみた場合とは異なっており、非正規職員・従業員の減少は、必ずしも新規学卒者の就職状況が改善したことだけによるものではないことを窺わせる。ただし、とはいうものの、それより年齢が高くなると、やはり非正規職員・従業員の数および割合は上昇している。

 ここで、年齢の高い世代の正規雇用化を進めるための雇用政策を考えてみたい。今回の分析が示唆するのは、この間の景気回復は、新規学卒者の就職状況を改善させることや、若い非正規の正規雇用化が進むことに寄与したが、年齢の高い世代の正規雇用化には寄与していない、というものである。その理由としては、前者の方が採用時点の職業能力が高いことよりも、前者の方が、企業内の教育訓練を経て長期的に高いパフォーマンスを引き出せることである可能性が高いと思われる。(職業経験の浅い新規学卒者等よりも、一定の職業経験がある年齢の高い世代の方が、採用時点では高い職業能力を持っていると考えられるため。)あわせて、年齢が高くても非正規を続けていること自体がシグナル効果をもち、企業に採用をためらわせる。すなわち、新規学卒者の定期採用に「入職口」が限られ、企業内の教育訓練を中心とした職業能力形成を特徴とする日本の長期雇用慣行を前提とすると、年齢の高い世代の正規雇用化を進めることは容易ではないことになる。
 このため、年齢の高い世代の正規雇用化を進めるための雇用政策としては、(1)新規学卒者の定期採用以外の「入職口」を広げることと、(2)企業内の教育訓練以外の職業能力形成機会を充実させることが基本となる。(1)には、トライアル雇用や雇入のための助成金、企業の教育訓練費用に係る助成金やジョブ・カードなどの職業能力評価制度(あるいは、これらの組み合わせ)といった政策、(2)には、雇用保険受給者以外でも給付金を受けながら公的な職業訓練を受講できる求職者支援制度といった政策が、それぞれすでに存在している。
 いずれの政策も、企業の労働力需要によって生じる(限られた)就業機会を、新規学卒者等だけではなく、より広い世代に行き渡らせることに寄与する仕組みである。特に後者は、2008年秋の金融危機以後にできたものであるため、今後、2002年以降にあったような景気回復が実現すれば、以前よりも広い世代で正規雇用化が進む可能性はある*1。しかしながら、これらの仕組みが、日本企業の長期雇用慣行に内在する仕組みを代替するものとなるまでには、まだ相当の年月を必要とするだろう。例えば、大卒者の就職活動では、それぞれの企業ごとに異なるエントリー・シートを作成し応募することが必要であり、エントリー・シートを(ジョブ・カードなど)一定の様式に統一しようというような動きはまだ緒についたばかりである。このことは、新規学卒者の採用でも、企業ごとに異なる評価基準があることを窺わせる。企業内の教育訓練にいたっては、学校教育や公的な職業訓練がそれを代替するものとなるには、さらに大きなハードルがある*2
 企業の雇用管理をそのインセンティブに働きかけながら制度的に変え、より年齢の高い世代の正規雇用化を進めることは、長期不況を経て非正規職員・従業員の数が劇的に増加している現在、求められる政策であるといる。その一方で、より際立った景気回復によって企業の労働力需要そのものが大きなものとなれば、日本経済全体として、より高いパフォーマンスが発揮されることになり、個別の政策に頼らずとも広い世代の雇用が改善することになる。年齢の高い世代の正規雇用化を進めるための容易な道は、むしろこちら側にあるのではないかと思われる。

関連エントリー

http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20111010/1318211052

  • 雇用政策のジレンマ

http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20111130/1322646509

*1:逆に、広い世代での正規雇用化が進まなかったとしたら、現時点の制度を見直す必要がある。

*2:私見では、そのためには、労働組合の強い関与が必須である。