ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

物価と給与の推移──2013年9月までのデータによる更新

 先日のエントリーに掲載した、消費者物価(生鮮食品を除く総合、コア)と所定内給与(概ね基本給に相当)の水準の推移の比較を更新した。

 9月は、物価がやや上昇する中で給与のが停滞している。先日も指摘したように、労働市場がさらにタイト化する中で、需給ギャップの縮小による物価上昇(ホームメイド・インフレ)へと移行し、企業の給与支払い余力が高まることで給与の増加へとつながることを期待する。今後、雇用情勢を考える上でキーワードとなるのは、雇用の「量」の改善から雇用の「質」の改善へ、ということになる。またこのことは、雇用者に占める非正規雇用者の割合の低下や、1人あたり給与の改善によって測ることができる。

 なお、雇用者に占める非正規雇用者の割合の低下と、1人あたり給与の改善は、近年の労働統計の動きをみる限りほぼ同義である。給与水準の長期的な推移を、フルタイム・パートタイム及びその計の別にみると、つぎのようになる。

計の給与(名目賃金指数)は、よくいわれるように、1997年をピークとして大きく低下し今に至っている。しかし、フルタイム・パートタイム別の給与は、その印象が大きく異なる動きをしている。フルタイム労働者の給与は、リーマン・ショックの前までは景気の動向に連動しつつも緩やかに低下していたが、リーマン・ショックを境に劇的に低下し、その後は横ばいで推移している。この劇的な低下は、ほぼ、賞与の低下によって説明できる。日本企業は、リーマン・ショック後の企業業績の低下を労働者の賞与に反映させ、賃金コストを削減することができたが、業績が改善している現在でも、元に戻すことができていない。一方、パートタイム労働者の給与は長期的に上昇している。パートタイム労働者の給与が相対的に高まっていることは、パートタイム労働が、企業内で基幹労働化していることを別の側面から示している。

 しかしいずれにしても、フルタイム・パートタイム別の給与の低下幅はそれほど大きなものではない。計の給与が大きく低下を示す中、フルタイム・パートタイム別の給与がそれほど低下していないということは、すなわち、近年の給与の低下は、雇用者に占める非正規雇用者の割合の上昇によって大部分が説明できるということである。いいかえれば、労働者一人ひとりが受け取る給与は低下している実感がないまま(あるいは低下せずとも)、低所得労働者が増えることで、企業が支払う1人あたりの賃金コストは減少している。その一方で、デフレは進行するので、労働者にとっては、生活水準が悪化したとの印象が少ない。マクロでみた所得の低下は、一国経済的には大きな問題であるが、大部分の労働者にとっては、その問題の重要性が、本来の姿よりも小さなものに映っていた可能性がある。